日経サイエンス  2010年6月号

ミミズ遣いのワザ

K. カタニア(バンダービルト大学)

 地面をゆらすとミミズが出てくるのはなぜか? 震動を雨だと解釈しているという説があったが,かつてダーウィン(Charles Darwin)が推測したように,腹をすかせたモグラから逃れるためだった。

 

 夜明けにフロリダのしかるべき場所でハイキングをしたら,草木の陰に隠れた捕食動物がたてる音が聞こえるかもしれない。ワニに違いない,とあなたは思うだろう。しかし,それはワニではなく,クマでもなく,アマゾンから新たにやってきた外来の捕食動物でもない。その音をたてているのはミミズを捕まえようと狙っている人間,「ワーム・グランター」だ。

 

 ワーム・グランターはミミズを巣穴からおびき出すワザに熟達していて,地表に出てきたミミズを集め,釣り餌として売っている。まず木の棒を地面に打ち込んでから,この棒を「ルーピング・アイアン」と呼ばれる平らな金属片でこする。棒が振動し,この揺れが地面に伝わって土を震動させる。これに応えて,何百匹もの大きなミミズが地表に出てくる。棒をこすっている業者から12mも離れた場所から出てくるミミズもいる。

 

 ミミズはなぜ,捕食者がいるかもしれないのに日光でまる見えの地表にわざわざ出てきて自らの身をさらすのだろうか? 地上にはミミズを好んで食べる動物がたくさんいるし,さらには釣り餌採集業の人間までいる。震動を感じたら,むしろ地中深くに行くほうがよさそうに思える。

 

 釣り餌を集める人たちの間では最近まで,ミミズが震動を雨だと解釈して,土壌が水浸しになって溺れ死にするのを避けるために急いで地表に出てくるのだと考えられていた。確かに,豪雨の後に舗装道路の上をミミズが這っているのをよく見かける。しかし私は何か別の理由があるのだろうと思った。

 

 1800年代,ダーウィンは震動によってミミズが地中から出てくるという同様の話を耳にし,彼もまた,なぜだろうと疑問に思った。この現象を観察した人のなかには,ミミズが震動を腹ぺこのモグラが迫ってきた印だと解釈し,あわてて逃げ出そうとしているのだろうと考えた人もいた。私は2008年,ミミズの行動がまさにモグラに反応したものであることを実験によって突き止め,この問題に決着をつけた。

 

 

再録:別冊日経サイエンス206「生きもの 驚異の世界」

著者

Kenneth Catania

カリフォルニア大学サンディエゴ校で神経科学のPh. D. を取得し,現在はバンダービルト大学で生物科学科の准教授を務めている。ホシバナモグラやトガリネズミ,ハダカデバネズミなど,変わった哺乳動物の脳と感覚系を研究してきた。神経行動学の業績に対して贈られるカプラニカ賞,神経解剖学のヘリック賞,サール奨学賞のほか,2006年にはマッカーサー・フェローシップを受けた。妻のエリザベスとともに,野生生物の写真撮影とロッククライミングを楽しんでいる。本誌には「ホシバナモグラの驚異の鼻」(日経サイエンス2002年10月号)を執筆。

原題名

Worm Charmers(SCIENTIFIC AMERICAN March 2010)

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