日経サイエンス  2010年6月号

冷たい地球 衛星タイタンの姿

R. ローレンツ(ジョンズ・ホプキンズ大学) C. ゾーティン(カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所)

 「輪郭がはっきりしない,縫い目のないテニスボール」。1980年代初めにボイジャー探査機が撮影した土星最大の衛星タイタンの画像を見た,探査チームのメンバーの1人オーエン(Tobias Owen)の言葉だ。それから30年あまり,土星周回探査機カッシーニと着陸機ホイヘンスによって,タイタンを覆うもやの奥が明らかになってきた。

 

 2005年1月,ホイヘンスはタイタンに着地した。ホイヘンスがタイタンへの降下中に撮影した空撮画像には,枝分かれした河道が,降雨でできたと思われる小川に分断されている様子が映っていた。着地点周辺には液体によって浸食されたと思われる角のとれた丸い氷が砂の上に散在しており,その土壌は湿っていた。着地点は川床のようだった。また,アフリカ南西部にあるナミブ砂漠のような砂丘地帯や,火山流が固まったような地域など,カッシーニやホイヘンスによって撮影されたタイタンの画像には,地球を撮影したのではないかと見間違えるほど,“どこかで見たことがある風景”が映っていた。

 

 タイタンが地球に似ているのは,地形だけではない。カッシーニは雲が地球で発生する積雲のように立ち上り,その粒が雨に変わるにつれて雲が散逸していく様子を捉えた。また,雲が通り過ぎた後に黒っぽくなった地表を複数の地域で観測した。液体は黒っぽく映るため,そこに雨が降ったと考えられる。ただし,降っているものは水(H2O)ではなくメタンだ。

 

 さらにタイタンの内部進化の研究やホイヘンスによる電気測定の結果,タイタンの地下にはアンモニアの混ざった水の海が広がっていることが示唆されている。その海は数百kmの深さがあり,生命を育んでいる可能性があると指摘する研究もいる。タイタンのもやの下では,地球で起こっていることと同じようなことが繰り広げられているのだ。

著者

Ralph Lorenz / Christophe Sotin

ホイヘンスの設計・製作に携わったローレンツは, ハッブル宇宙望遠鏡を用いてタイタンの最初の地図を作ったり,カッシーニによるタイタンのレーダー観測を計画するチームを率いたりした。現在, ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所に所属。彼は多くの著書を書いているが, その中の一冊「Spinning Flight」を執筆するにあたり, おもちゃのフリスビーで航空力学を研究した。ゾーティンはカッシーニの可視光・赤外線撮像分光器を用いてタイタンの地表を観測し,解析を行っている。現在,カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所所属。10歳のときにフランスのブルターニュ郊外にキャンプに出かけ,そこでアポロ11号の船長アームストロング(Neil Armstrong)の月面への第一歩をラジオで聞いた。

原題名

The Moon That Would Be a Planet(SCIENTIFIC AMERICAN March 2010)

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