日経サイエンス  2010年5月号

鯨骨生物群集は進化の“飛び石”?

中島林彦(編集部) 協力・撮影:藤原義弘(海洋研究開発機構)

日本近海にはクジラが数多く回遊しており,クジラが死ぬと海底に沈むので,クジラの骨(鯨骨)をベースとした「鯨骨生物群集」が日本周辺の海底に多数存在している可能性が高い。世界で最初に鯨骨生物群集が見つかったのは米カリフォルニア沖だが,2番目に発見されたのは伊豆諸島近海だった。

鯨骨生物群集は生物多様性や生命進化を考える上でユニークな位置を占めるとみられ,海洋研究開発機構を中心に研究が進められている。「これまでの調査研究で新種の海洋生物が多数発見された。生物の共生関係の進化を考える上で,鯨骨生物群集が重要な意味を持っている可能性があることもわかってきた」と藤原義弘チームリーダーは話す。

日本近海で鯨骨生物群集が初めて見つかったのは1992年。伊豆諸島鳥島の東方約150kmにある鳥島海山を調査していた潜水調査船「しんかい6500」が水深4037mの深海底で偶然発見した。鯨骨はニタリクジラのもので,骨はかなり失われ,一見すると白っぽい大きな石が等間隔で並んでいるようだった。この骨の塊に,見慣れない二枚貝やコシオリエビという甲殻類,ゴカイの仲間などが群がっていた。

それ以降,日本近海において,自然に生じた鯨骨生物群集の新たな発見はないが,漂着したり浮遊していたクジラの遺骸を沈めて生物群集がどのように形成,変化していくのか調べる研究が進んでいる。

協力・撮影:藤原義弘(ふじわら・よしひろ)
海洋研究開発機構海洋・極限環境生物圏領域海洋生物多様性研究プログラム化学合成生態系進化研究チームのチームリーダー。鯨骨生物群集の研究に取り組んでいる。本文で紹介されているホネクイハナムシにも詳しい。海洋生物の撮影にも力を注ぐ。

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