
貧困国で蔓延している病気と聞いて私たちが思い浮かべるのは,エイズやマラリアかもしれない。だが実際には,寄生虫や細菌を原因とする感染症が甚大な被害を及ぼしている。これらは「顧みられない熱帯病(NTD)」と呼ばれ,2000年に掲げられた持続的な貧困軽減のためのミレニアム開発目標では「その他の病気」として一括りにされていた。
NTDで最も多いのは,回虫症,鞭(べん)虫症,鉤(こう)虫症,住血吸虫症,リンパ系フィラリア症,オンコセルカ症の寄生虫を原因とする6つの感染症と,クラミジアという細菌が原因のトラコーマだ。世界の貧しい国で暮らす人々のほとんどがNTDに感染しており,複数の感染症を抱えている人も多い。NTDは通常,致命的ではないが,重度の貧血,栄養失調,知的・精神的発達障害,失明など,さまざまな障害を残す。そのため,感染者は就学や就労が困難になり,貧困から抜け出せない原因となっている。
安価な薬で治療や予防ができるのだが,これまで十分な人に行き渡っていなかった。最近になって,世界保健機関(WHO)や低中所得国の保健省,慈善団体などが協力して,NTDの根絶に向けた取り組みを始めている。NTDが蔓延する国では健康被害だけでなく経済的損失も大きいため, NTDを撲滅することは貧困国が抱える諸問題を解決する近道にもなるだろう。
著者
Peter Jay Hotez
子ども時代に読んだド・クライフ(Paul De Kruif)の名著『微生物の狩人』を読んで医学に関心をもつようになり,父親に顕微鏡をせがんだという。その後,博士号と医師免許を取得し,寄生虫学を専門とした。現在はジョージ・ワシントン大学の微生物学・免疫学・熱帯医学科の学科長。セービン・ワクチン研究所長であり,米国科学アカデミーの会員のほか,本文で紹介しているNTDグローバル・ネットワークの共同設立者でもある。
原題名
A Plan to Defeat Neglected Tropical Diseases(SCIENTIFIC AMERICAN January 2010)
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