
一般相対性理論が予言するブラックホールは,重力が強すぎて,光すら脱出できない天体だ。これまでにブラックホール近くのガスやその他もろもろの物質,ブラックホール近傍から噴き出していると想定されている途方もないエネルギーは撮像されているものの,依然としてブラックホールそのものは“見えないもの”として脇に置かれたままだ。その見えないブラックホールを直接“観”ようという計画が進んでいる。
観測ターゲットの1つは天の川銀河の中心にあると考えられているブラックホール「いて座Aスター」だ。太陽の450万倍もの質量を持ち,2万4000光年も彼方にあるこの天体の“見かけの”大きさは,差し渡し55マイクロ秒角ほどと見積もられている。ロサンゼルスに置かれたケシの実をニューヨークから見るようなものだ。そんなことが本当に可能なのだろうか。
望遠鏡の解像度を高めるには望遠鏡の口径を大きくすれば良いが,実際に作れる大きさには限界がある。しかし,望遠鏡を複数組み合わせて解像度を高める方法もある。干渉計の技術を用いて,複数の望遠鏡が検出した信号を結びつけるというものだ。望遠鏡間の距離が離れているほど解像度は高くなり,高解像度の精密な観測が可能になる。世界各地にある望遠鏡を連携させれば,地球サイズの望遠鏡と同程度の解像度まで高められるのだ。
この技術をブラックホール観測に適した波長を観測できる望遠鏡として応用すれば(もちろん,他にも越えなければならない技術的壁はあるが),ブラックホールを直接捉えることが可能になる。高温で輝くガスを背景にブラックホールの黒いシルエットを撮像する日はすぐそこまで迫っている。
著者
Avery E. Broderick / Abraham Loeb
2人は,現在ローブが所長を務めるハーバード・スミソニアン天体物理学センターの理論および計算研究所で,2005年に共同研究を始めた。ブロデリックはトロント大学カナダ理論天体物理学研究所の上級研究員。超大質量ブラックホールの地平面を解像する研究を推進してきた1人だ。ローブはハーバード大学の天文学教授で,イスラエルのレホボトにあるワイツマン科学研究所の客員教授を兼任。最初の星や超大質量ブラックホール,ガンマ線バーストなどの理論的研究において先駆的な役割を果たしている。
原題名
Portrait of a Black Hole(SCIENTIFIC AMERICAN December 2009)
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