日経サイエンス  2010年2月号

エコな食糧危機解決策?摩天楼で農業

D. デポミエ(コロンビア大学)

 現在,世界で暮らす68億の人々は,南米大陸に相当する広さの土地を農業に使っているという。世界人口は2050年までに95億人になると予想されており,これだけの人口を養うにはさらにブラジル大の土地が必要だ。

 

 問題はそれだけにとどまらない。現代の農業では農地開発による森林破壊,農薬による水の汚染,大型耕作機の運転や輸送のため化石燃料の大量消費など,地球に与える被害も深刻になっている。改革が必要なのは明らかだ。著者が提案するビル型農場ならば,こうした問題をすべて解決できるという。

 

 著者は,都市部に1ブロック(0.02平方km)ほどの広さの土地に30階建てのビルを建て,厳密な環境コントロールのもと作物を育てることを想定している。とてつもない計画に聞こえるかもしれないが,すでに屋内型農場は世界各国で広がりを見せており,今ある技術で十分実現可能だという。 

 

 既存の屋内栽培技術や矮性(背丈の低い)作物を使えば,高い密度で作物を栽培できるし,環境をコントロールするので1年中数回にわたり収穫できる。簡単に見積もると,上記のビル型農場でおよそ10平方kmの屋外農場に相当する作物を収穫できる計算だ。

 

 この農場の運営には水とエネルギーが必要になるが,都市下水を浄化して灌漑に利用し,そこで出た汚泥や植物廃棄物を燃やしてエネルギーを得ることで解決できる。さらに,農場を都市部に設けることで,食品の輸送にかかるエネルギーやコスト,損失を減らせる。

 

 すでに世界中の複数の都市の都市プランナーから申し入れがあり,実現に向けた動きも始まっている。この計画の詳細に加え,日本でも広がりを見せている植物工場の現状について紹介する。

 

 

再録:別冊日経サイエンス189 「都市の力 古代から未来へ」

著者

Dickson Despommier

コロンビア大学の公衆衛生および微生物学の教授。ビル型農場プロジェクトの代表も務める。このプロジェクトは開発事業のための情報収集・交換所としても機能している(http://www.verticalfarm.comを参照)。ロックフェラー大学のポスドク研究員時代に,有名な農学研究者であるデュボス(René J. Dubos)の友人となり,人類生態学という概念を教わった。

原題名

The Rise of Vertical Farms(SCIENTIFIC AMERICAN November 2009)

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