日経サイエンス  2010年2月号

メディアビジネスを変える ネットTVの衝撃

M. モイヤー(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 ソファに座ってリモコンのボタンを数回押すだけで,新作映画でも,先週見逃した人気テレビ番組でも,望みの動画エンターテインメントを楽しめる……。多くのメディアがデジタル化し,先進国ではブロードバンド通信が電力や水道といった生活インフラ同様に整備されている昨今,そんなことはたいして難しいことではないように思われる。しかし現実には,見たいものを見たいときに見るのは容易ではない。技術的な問題のみならず,関連業界の思惑が絡んでいるからだ。

 

 テレビ画面に動画を表示するには,その前提として動画がネット上にアップされていなければならない。そのことをコンテンツ・プロバイダーは非常に恐れている。海賊版に気をもむ映画配給会社。視聴者がネットに移ってしまうのではないかと危惧するテレビ局。音楽業界の二の舞になることだけは避けたい彼らは,インターネット経由での動画配信方法を慎重に検討している。日本ではNHKオンデマンドなどのような有料配信が主流だが,米国のhulu.comのようにCM付きのテレビ番組を無料配信するサイトもある。

 

 ケーブルテレビ会社の動向にも注目だ。ケーブルテレビ回線を利用するブロードバンド接続は米国で最も普及しているインターネット接続手段だ(日本でも利用者が多い)。だが,ケーブルテレビ会社の “本業”はあくまでケーブルテレビだ。そのため,米国のケーブルテレビ会社はインターネットにケーブルテレビが食われることがないよう,ケーブルテレビの加入者だけがインターネットを経由してケーブルテレビ番組を見られるシステムを試みたり,ダウンロードやストリーミング可能なデータ量を制限したりしている。

 

 さまざまな問題はあるものの,近い将来ネットTVの時代が来ることは間違いない。ハーバード大学の特別研究員サールズはいう。「5年後,今のようなテレビはなくなっていると断言できる」。

原題名

The Everything TV(SCIENTIFIC AMERICAN November 2009)

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