日経サイエンス  2009年12月号

特集:「起源」に迫る

生命の起源

生物学

A. リカルド J. W. ショスタク(ともにハーバード大学)

 最初の生命はどうやって誕生したのだろう? 2009年の春,英国発のニュースがこの難問に取り組んでいた研究者たちを大いに興奮させた。難関中の難関とされていたプロセスに,ついに答えが見つかったからだ。

 

 現在の生物に必要不可欠な生体分子には遺伝物質(DNAやRNA)とタンパク質がある。原始の地球に存在した水やアセチレン,シアン化物などといった単純な分子から,タンパク質の構成ブロックができることは半世紀も前から実験でわかっていた。一方,遺伝物質の構成ブロックは難問だった。構成ブロックはさらに3つのパーツに分けることができる。それぞれのパーツは著者らの研究などによって自然に生じるプロセスがわかっていた。また,いったん構成ブロックができてしまえば,短いながらも鎖状につながっていく過程もわかっていた。だが,3つのパーツから構成ブロックができる過程が数十年の課題だった。これに対して英国チームがこの春,ついに答えを見つけたのだ。

 

 二重鎖になった遺伝物質が複製のためにいったんほどけてばらばらになるプロセスなど,自己複製に必要な細かな反応も外部条件さえ整えば可能であることがわかってきている。脂質の膜でできた小胞が成長して,分裂する仕組みも実験で確かめられている。実験では,まだ生命とは呼べない小胞が“競争”によって一方は消滅し,他方は成長する現象まで起きている。

 

 いまや,研究者たちはわかっている1つ1つのプロセスをつなぎ合わせて,最初の生命を実験室で復元することに挑み始めている。

著者

Alonso Ricardo / Jack W. Szostak

リカルドはコロンビアのカリ出身で,ハーバード大学ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員。生命の起源に長年興味を抱き,現在は化学反応によって自己複製するシステムを研究している。ショスタクはハーバード大学医学部とマサチューセッツ総合病院の遺伝学教授。20年以上前のSCIENTIFIC AMERICANにA. W. マレーと共著で「人工染色体」という記事を寄せているが(サイエンス1988年1月号),このころから生物学的な作用に関する知識を試験する手段として,生物の分子や構造物を人工的に作りあげることに興味を抱いてきた。染色体の端にあるテロメア配列とそれを修復する酵素テロメラーゼの研究でも知られ,この業績により2009年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。

原題名

Origin of Life on Earth(SCIENTIFIC AMERICAN September 2009)

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