
きちんと食べているのに栄養失調に──小麦に含まれる「グルテン」というタンパク質が発病の引き金となる「セリアック病」は奇妙な子どもの病気として古代ギリシャの文献にも登場している。本来は,病原体から守ってくれるはずの免疫系が小腸粘膜を攻撃してしまい,小腸での消化・吸収がうまくいかなくなる自己免疫疾患だ。
自己免疫疾患はほかにもいろいろあるが,セリアック病は発病の引き金となる環境因子が食べ物のグルテンであるとはっきりわかっている点で研究者の関心を集めている。
最近,セリアック病の研究では大きな進展があった。1つは,血液検査で簡単に予備診断ができるようになったこと。すると,それまで知られていた数のほぼ10倍もの患者が存在していることがわかった。見過ごされていた人たちには,それまでセリアック病とは無関係と思われていた症状を示している患者もいた。日本にはセリアック病はないというのがそれまでの定説だったが,これも現在では疑問視されている。
また,環境要因(グルテン)と遺伝的素因(特定のタイプの白血球型)だけでなく,小腸の構造異常という3番目の要素があり,この3つがそろうと初めて発症することもわかってきた。逆に言えば,どれか1つでも確実に対処できれば,発病を抑えることができる。さまざまな戦略の薬が続々と臨床試験に入っている。
著者
Alessio Fasano
メリーランド大学医学部小児科学教授,薬理生理学教授。粘膜生理学研究所およびセリアック病研究所所長。専門はセリアック病や自己免疫疾患における小腸粘膜透過性の基礎および臨床的研究。
原題名
Surprises from Celiac Disease(SCIENTIFIC AMERICAN August 2009)
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