日経サイエンス  2009年9月号

迫り来るリン資源の危機

D. A. バッカーリ(スティーブンス工科大学)

 リンは,窒素やカリウムとともに肥料の重要な成分だ。リンを豊富に含む岩石からリン酸塩の形で採取されるが,採取が容易なリン鉱石の83%はモロッコ,米国,中国,南アフリカ共和国の4つの国に集中している。人口が増加しつづけ,農業生産がさらに拡大すれば,リン資源はあと100年足らずで枯渇すると見られている。

 

 また,リン資源の大量消費は土壌浸食の原因にもなっている。肥料を大量に投入する20世紀の近代農業によって,土壌中のリンはかつての3倍もの速さで消費されるようになった。米国のイリノイ川流域では,1kgのトウモロコシを生産するごとにおよそ1.2kgの土壌が浸食されるているという。

 

 さらにリンが河川に流れ込むことによる環境汚染も深刻だ。リン濃度が高くなりすぎるとシアノバクテリア(藍藻)や藻類が大発生して水面をおおい,酸素不足が魚が死ぬ。人工衛星から地球を見ると,藻類の大発生によって生物が死に絶えた「デッドゾーン」があちこちに見つかる。その面積は地球全体で24万5000km2に達している。

 

 現在の状況を改善して,食糧生産を持続可能にするには,農業廃棄物や屎尿(しにょう)に含まれるリンを再利用することが最も効果的だ。

著者

David A. Vaccari

スティーブンス工科大学の准教授で,土木・環境・海洋工学科の研究科長。廃水のバイオ処理,河川汚染の影響に関するモデリングの専門家。教科書Environmental Biology for Engineers and Scientistsを共同執筆。有人火星探査を目的としたNASAの再生循環プロセス開発にも参加している。

原題名

Phosphorus: A Looming Crisis(SCIENTIFIC AMERICAN June 2009)

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