
大容量のデータ記録技術は,インターネット時代を花開かせた陰の立役者だ。だが現在の技術はどれも一長一短。ハードディスクは大容量記憶できて安いが,書き込み・読み出しに時間がかかり,クラッシュの危険もつきまとう。DRAMは書き込み・読み出しは速いが,電源を落とすとデータは消える。フラッシュメモリーは速度は今ひとつだし,あまり頻回に書き込むと壊れてしまう。これらの技術を「いいとこ取り」する新たなメモリーとして期待されているのが,IBMが開発を進める「レーストラックメモリー」だ。金属製のナノワイヤに,ハードディスクと同じように,磁気を用いてデータを記録する。ハードディスクではデータにアクセスするためにディスクを回転させているが,レーストラックメモリーでは記録したデータそのものがワイヤの中で前後に動くので,ワイヤの横に固定した磁気ヘッドで読んだり書いたりできる。可動部分がないのでクラッシュせず,動作も半導体メモリー並みに速い。ワイヤをチップ状に垂直に立てれば3次元記録が実現でき,超大容量化も実現できるという。IBMは実用化をめざし,試作を重ねている。
著者
S. S. P. Parkin
IBMフェロー。カリフォルニア州サンノゼにあるIBMアルマデン研究所の磁気エレクトロニクス研究部長。スタンフォード大学応用物理学科の兼任教授。IBM─スタンフォード・スピントロニック科学応用センター所長も務める。巨大磁気抵抗効果の研究で成果を上げ,ハードディスクの記録密度の飛躍的向上をもたらした。
原題名
Data in the Fast Lanes of Racetrack Memory (SCIENTIFIC AMERICAN June 2009)
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