日経サイエンス  2009年9月号

「かぐや」が見た月の600日

加藤 學(宇宙航空研究開発機構)

 日本最古の物語,竹取物語の主人公にちなんで名付けられた探査機「かぐや」。月上空の高度100kmに約600日とどまり,月面をつぶさに調べた。竹取の翁(おきな)と嫗(おうな)から名前を取った子衛星「おきな」「おうな」もかぐやの仕事を助けた。

 

 2009年2月,使命を終えたおきなが月の裏側に落下,そして同年6月,かぐやにも最期の時が来た。6月11日未明,宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパスのかぐや管制室には多数の関係者が詰め,最後の指令がかぐやに送られた。かぐやは予定通り,月の表側の南半球にあるクレーターの斜面にほぼ水平方向から突っ込んだ。おうなは月を周回しているが,役目を終えたため,6月末に地球との交信が絶たれた。

 

 かぐやによる月探査は「アポロ計画以来」ともいわれる大がかりなものだった。観測装置のごく一部にトラブルがあったが,全体的に見れば当初計画を上回る質と量のデータが得られた。

 

 かぐやが成し遂げたことを一言で言えば,月の裏側とはどんなところか明らかにしたことだ。月は自転周期と公転周期が同じなので,地球からは表側は見えても,裏側は見ることができない。そしてこれまでの月探査でも,裏側については詳しい地形や重力の様子などはわかっていなかった。それがかぐやによって,すべてが見えるようになった。例えば,かぐやは月の表と裏で大型クレーターの重力場の状況が異なることを発見した。このことから月の表と裏では初期の温度がかなり違っていたことがわかった。また,かぐやは南北両極域についても高精度の地形図を作成,日照条件を明らかにするなど将来の月基地建設に役立つデータが得られた。

著者

加藤 學(かとう・まなぶ)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部固体惑星科学研究系研究主幹・教授。月探査機「かぐや(SELENE)」のサイエンスマネージャ。搭載する観測装置の1つ,蛍光X線分光器も担当する。小惑星探査機「はやぶさ」にも参画した。かぐやの研究成果を一般に広く知ってもらおうと,各地での講演などにも取り組んでいる。

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