
東京・六本木の国立新美術館に宇宙や時間を感じる“神殿”が出現した。広い真っ白な部屋がいくつも続く。ある部屋には太古から生き続けてきたストロマトライト(藍藻類)の大きな写真が掲げられ,その手前には,静かに泡立つ液体酸素(美しい水色)を収めたガラス容器が並ぶ。満月や三日月とともに五線譜が写し込まれた天体写真が膨大な枚数張られ,静かな女声コーラスが,その“月の譜面”を奏でている部屋もある。隕石やDNAの二重らせん模型などを安置した部屋,宇宙からの電波が音に変換されて流れている部屋,遠い銀河の写真と化石が対になっていくつも掲げられている不思議な部屋もある。現代芸術家,野村仁(のむら・ひとし)氏の40年に及ぶ仕事を集大成した展覧会「野村仁 変化する相 ─時・場・身体」(2009年5月27日~7月27日)だ。
野村氏は作家活動の初期から「見る」ことにこだわってきた。「人は風景を前にして,全体を眺めたり,脈絡がないかのように視線をさまざまに動かす。それはあたかも微粒子のブラウン運動のようでさえある」と感じた野村は,「ならば,そのすべてをありのまま記録し,人が見るということの性質を明らかにしよう」と思い立つ。そして1970年代初めから約10年,重さ3kgのカメラを毎日持ち歩いた。そうした日々の中,出勤途中にふと空を見上げると,電線越しに淡く白い昼の月が浮かんでいた。「電線を五線譜に見立てれば楽譜ができるんじゃないか」と思ったのが月の作品群が生まれる1つの契機となり,その後,月に続いて太陽や銀河などへと作品の題材が広まっていった。
作者:野村仁(のむら・ひとし) 京都市立芸術大学大学院教授。1960年代末から,いち早く,写真を使った芸術表現に取り組む。巨大な段ボール箱やドライアイスなどの固体がゆっくりとその形や様相を変えていくさまを写真で記録し,「重力」や「時間」を目に見える形で示す作品で注目を集める。写真や映像,音などさまざまなメディアを使って表現するマルチメディア・アーティストの日本におけるパイオニアでもある。
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野村仁/曲がった大気中の自転/北緯35度の太陽/正午のアナレンマ’90/影を通過する物体/天路1910年:ハレー彗星の回帰