日経サイエンス  2009年7月号

サイエンス・イン・ピクチャー

超大陸分裂と恐竜の進化

中島林彦(編集部) 協力:冨田幸光(国立科学博物館)

 南極大陸を東西に分ける南極横断山脈。氷の世界にそびえる岩山の1つ,カークパトリック山の標高4000mの山腹で,防寒着に身を固め,希薄な空気に苦しみながら岩を砕く男たちがいた。米オーガスタナ大学などからなる発掘調査隊の面々だ。

 

 岩の中から姿を現したのは今から約2億年前の恐竜の化石。骨格全体の50%以上が発掘された。それらをもとに,足りない部分を補って全身骨格を復元してみると,全長約7mの二足歩行する肉食恐竜が姿を現した。頭にトサカ飾りがあることから,「冷凍のトサカトカゲ」を意味するクリオロフォサウルスと名付けられた。また,植物食恐竜の脚の骨の一部が一緒に見つかった。クリオロフォサウルスはこの恐竜を食べていた可能性がある。

 

 ハリウッド映画『ジュラシック・パーク』などで一般に広く知られる恐竜。だが,私たちが思い描く恐竜は約1億6500万年続いた恐竜時代の後半,北米大陸で繁栄した種がほとんどだ。これまで長らく恐竜化石の発掘は北米が中心だったからだが,近年,南半球での恐竜化石の発掘が本格化,サハラ砂漠や赤道近くのアフリカ大地溝帯,常に強風が吹く南米南部パタゴニアなどで続々,新たな恐竜の化石が見つかっている。上に紹介した南極の恐竜化石もその1つだ。これらはすべて,かつて南半球に存在した巨大な大陸,ゴンドワナを闊歩していた恐竜たちだ。

 

 恐竜が出現した当時,今の全大陸のもとになった超大陸パンゲアがあった。そしてパンゲアは北半球側のローラシア大陸と,南半球側のゴンドワナ大陸に分裂,恐竜はそれぞれの大陸で独自の進化をしていった。上野の国立科学博物館でゴンドワナ大陸の恐竜化石が特別展示されるのを機に,こうした新顔恐竜の発掘現場や復元骨格の写真を紹介するとともに,恐竜の進化に関する研究の現状を解説する。

 

 

再録:別冊日経サイエンス185 「進化が語る現在・過去・未来」

協力:冨田幸光(とみだ・ゆきみつ)
国立科学博物館研究主幹(地学研究部生命進化史研究グループ)。専門は古脊椎動物学。特に哺乳類化石に関心があり,ウサギ類と齧歯類を中心とする小型哺乳類の系統進化および古生物地理の研究や,新生代古第三紀の原始的哺乳類の系統進化の研究に取り組む。鳥羽竜やアパトサウルスの系統分類的研究も進めている。

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