
地球上の火山噴火のおよそ85%が,冷たく暗い海底で人知れず進行している。見えないとはいえ,この火山活動は非常に重要だ。世界の海を支えている厚さ約7kmの岩盤は,これらの海底火山が作り出している。
海底火山の列「中央海嶺」はちょうど野球ボールの縫い目のように地球を巡っている。海洋地殻は,この縫い目に沿って両側に引き裂かれ,そのすき間を埋めるために地球内部の熱い岩石物質が上昇してくるのだ。
こう聞くと,おそらく多くの人はこんなイメージを抱くだろう──煮えたぎるマグマが火山の下にある巨大なマグマだまりを満たし,ギザギザの割れ目を上昇して噴出する。だが,実際にはかなり違う。溶岩の旅は海底下数十kmの深部で始まる。そこでは溶岩の小さな滴(しずく)が,ごく小さな孔を伝って年に10cmというゆっくりした速度で上昇している。爪が伸びる速さと同程度だ。しかし海底面に近づくとこの動きはスピードアップし,集まった溶岩が大きな流れとなって,高速道路を突っ走るトラック並みの速さで海底にあふれ出す。
溶岩の小さな滴は「メルト」と呼ばれ,灼熱のマントル岩石がかく“汗”にたとえられる。滴にすぎないメルトが,どのようにして地球深部から海底まで上ってくるのか?
中央海嶺は長さ1万kmにも及ぶ長大な火山列だが,幅は5kmほどしかない。一方,地震波を使った研究から,メルトは幅が数百km,深さは少なくとも100kmの広い領域に存在することがわかっている。いったい,どのようにしてメルトは中央海嶺の狭い幅に集中するのだろう?
大陸上に露出した古い海洋底の調査と,溶岩と固体岩石の動きに関するシミュレーションから,これらの謎が解けてきた。
著者
Peter B. Kelemen
コロンビア大学ラモント・ドハティー地球観測所アーサー・D・ストローク記念教授。1980年にインド・ヒマラヤのオフィオライトを調査した際に,マグマがどのように地球内部の岩を通って移動するのかを考え始めた。それ以来,野外調査と数学的化学的モデリング,流体力学を組み合わせて,固体岩石と溶融岩石の相互作用を研究してきた。陸上野外調査をはじめ,日本の潜水調査船「しんかい6500」などによる深海調査や海底科学掘削も精力的に実施。室内での高温高圧実験や地球物理学的解釈なども含め,多くの論文とモデルを発表している。
原題名
The Origin of the Land under the Sea(SCIENTIFIC AMERICAN February 2009)
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