
50万年も前から人類を苦しめ,今なお,20秒に1人が結核で亡くなっている。先進国では過去の病気というイメージがあるが,既存の治療薬が効きにくい多剤耐性結核が広まれば,半世紀前の蔓延状態に戻りかねない。
結核の治療薬は1950年代や60年代に開発されたものがいまも主流だ。患者の多くは途上国にいるため,新薬を開発してもコスト的に見合わないという誤解が製薬大手にはある。
また,新薬開発の多くが失敗に終わっているのも,新たな治療薬が出てこない一因だ。これは,培養している結核菌を使った研究では非常によく効いても,動物実験では効果が見られなかったりするためだ。だが,結核菌のゲノムが解読されたことで,まったく新しいアプローチからの新薬開発が可能になる。すべての遺伝子(gene)を網羅的に解析するゲノミクス,遺伝子から作られるすべてのタンパク質(protein)を解析するプロテオミクス,代謝(metabolism)のプロセスに生じる中間産物や最終産物をすべて扱うメタボロミクスといった「オミクス研究」がその新しいアプローチ法だ。オミクス研究が今のペースで進めば,ヒトの体内に巣くう結核菌とまったく同じ振る舞いをするコンピューターモデルを20年以内に構築できるようになるだろう。そうすれば,新薬候補の効果や安全性をもっと簡単にもっと正確に予測できるようになる。
著者
Clifton E. Barry III / Maija S. Cheung
バリーは1991年に米国立衛生研究所(NIH)のアレルギー感染症研究所(NIAID)結核研究部門に加わり,現在は主任研究員。バリーの研究グループは結核の薬物探索とゲノミクスのあらゆる側面を研究し,韓国の超多剤耐性結核患者に関する臨床試験プログラムを運営している。チャンはNIAIDの特別研究員。ミドルベリー大学の卒業生で,世界的規模の公衆衛生と感染症について研究するため医学部への進学を計画している。
原題名
New Tactics against Tuberculosis (SCIENTIFIC AMERICAN March 2009)
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