
100年を超える伝統を持ち,80人以上のノーベル賞受賞者を輩出したシカゴ大学。キャンパスの歴史的ホールで2008年12月10日,ストックホルムでの授賞式を欠席した南部陽一郎同大学名誉教授へのノーベル物理学賞の贈呈式が行われた。駐米スウェーデン大使のホフストレム氏からメダルと賞状を手渡された南部氏はスピーチで受賞業績の「対称性の自発的破れ」について語った。
「本来,理論的には質量ゼロである素粒子が質量を持ち,しかも種類によってその値はバラエティーに富む。なぜ自然界はかくも複雑で豊かな多様性を持つに至ったのか? それをもたらしたのが対称性の自発的破れだ」
対称性の自発的破れは素粒子クォークどうしを結びつける「強い力」の理論である量子色力学と密接なつながりがある。この量子色力学の基本概念を提唱したのも南部氏で,これもノーベル賞級の業績だ。
南部氏のこうした研究の原点には,日本人で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)の中間子論がある。中間子論を出発点に,どのようにして対称性の自発的破れと量子色力学が発想され,それが最先端の素粒子物理学や原子核物理学,宇宙物理学,計算科学とどのように結びついているのか,東京大学の初田哲男教授と高エネルギー加速器研究機構の橋本省二准教授の協力を得て,その流れを展望する。
協力:初田哲男(はつだ・てつお)/橋本省二(はしもと・しょうじ) 初田氏は東京大学大学院理学研究科教授。専門はハドロン物理学で,高温高密度での量子色力学の理論的研究に関心がある。宇宙初期や中性子星内部,加速器実験で起こるクォーク・グルーオン・プラズマへの相転移などの研究に取り組む。格子QCDの数値シミュレーションに基づくハドロン構造論にも詳しい。2008年12月,ストックホルムでの南部陽一郎氏のノーベル賞受賞記念講演(講演したのは代理のヨナ=ラシニオ氏)では,対称性の自発的破れの研究の展開に関連して,初田氏と国広悌二京都大学教授による1994年の論文が紹介された。橋本氏は高エネルギー加速器研究機構(KEK)・素粒子原子核研究所准教授。専門は素粒子論,特に格子ゲージ理論による量子色力学の数値シミュレーションを研究している。計算機科学による素粒子・原子核・宇宙物理の分野融合型の研究を推進する研究拠点作りにも尽力している。NHKの「爆笑問題のニッポンの教養」に出演し,素粒子論の研究最前線をわかりやすく解説した。
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