
現存する哺乳類の種数の20%はコウモリ類が占めている。コウモリがこれほど多様な進化を遂げられたのは,もちろん空を飛べるからだ。夜空を飛んで餌を探せる動物はコウモリのほかにはフクロウやヨタカしかいない。
コウモリがどのように進化したのかは,これまで謎だった。コウモリには二大特徴ともいうべき際立った能力がある。「飛翔」と「エコーロケーション(反響定位)」だ。エコーロケーションは自分の出す超音波の反射をとらえて障害物や餌を“見る”能力のこと。これができるからこそ,コウモリは暗い夜空を自由自在に飛び回れる。この2つの能力のどちらを先に獲得したのか? ほぼ同時に獲得したのだろうか?
最近まで,見つかっている最古のコウモリの化石は5250万年前のイカロニクテリス・インデックス(Icaronycteris index)だった。このコウモリの一番の特徴は「現代のコウモリとそっくり」なこと。実際,翼の人差し指にも爪がある点を除けば,今のコウモリと区別がつかなかった(現在のコウモリの前肢は親指にしか爪がない)。骨の形態から,飛ぶこともエコーロケーションができることも推測できた。これでは,祖先動物の姿や生活ぶりを推測できない。
2008年2月に著者たちが詳しく調べて報告したオニコニクテリス・フィネイ(Onychonycteris finneyi)は,この謎に答えてくれるミッシング・リンクだった。このコウモリは前肢の5本の指すべてに爪があるなど,祖先動物の名残をより強く留めている。さらに,翼の縦横比から,現在のコウモリのような「連続はばたき飛翔」はまだできず,滑空しながらたまにはばたく「滑空はばたき飛翔」をしていたと推測できる。そして,何より重要なことに,エコーロケーションに必要な耳骨の特徴を備えていないのだ。
この化石でコウモリの謎の多くが明らかになったが,まだ不明の点も多い。たとえば,哺乳類の中でコウモリに一番近い近縁動物は何なのかはまだよくわかっていない。いつごろ,コウモリの系統が分岐してきたのかも不明だ。こうした謎を解くには,新たな化石の発見が必要だろう。
著者
Nancy B. Simmons
ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館・脊椎動物部の部長で哺乳類学担当の学芸員。コウモリの進化と多様性の研究を行っており,化石と現存するコウモリを解剖学的に調べている。南アメリカの降雨林でさまざまなフィールド調査を行ってきた。また,コウモリの種同士の系統関係を調べるためにDNA解析も手がけている。
原題名
Taking Wing(SCIENTIFIC AMERICAN December 2008)
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