日経サイエンス  2009年4月号

特集:進化する進化論

進化ゲームの進化度は?

お遊び

E. レジス(科学ライター)

 人気のコンピューターゲームSpore(スポア)は,自然選択による進化の内部機構を再現するという点で,成功と失敗が半ばするものになった。

 成功面を挙げれば,ゲームにも現実世界にも,個体間の競争があり,より適したものが生き残り,適していないものは滅びて,進化の基本原則である適者生存を再現している。ゲームでも実際の生物でも,単純な存在がより複雑なものへと発達する。これはダーウィン的進化の必然ではないものの,よく見られるパターンだ。最後に,Sporeでも自然界でも,生命体は左右対称になる傾向がある。

 しかし,いくつかの重大な違いがある。1つは,ゲームの初期ステージでは,生命体が特定の目標を達成したときに「DNAポイント」を獲得することだ。より高次の存在への進化はDNAポイントを獲得することであって,旅行者があちこちに旅して航空会社のマイレージポイントをためるのと変わらない。しかし現実世界の生物進化は対照的に,有性生殖などのメカニズムによってランダムに生じる遺伝子変異を通して進むのであり,単にDNAを蓄積することで起こるのではない。

 第2に,ゲームでは多くの決定的瞬間にプレーヤーが選べる手が限られており,あらかじめ決められたメニューから選択を強いられる。例えば細胞ステージでは,選べるのは肉食動物になるか草食動物になるかのいずれかだ。しかし現実世界では,進化の道の分岐点における可能性は非常に広く,より豊かであって,事前に決められているのでもない。

進化は小さなステップを踏みながらゆっくりと進むが,Sporeでは一足飛びの大変化が起こる。

 Sporeと自然選択による進化の最も大きな違いをもたらしているもの,つまり進化が意識的な「選択者」のいない創発的な現象であるのに対してSporeが明らかにそうでないのは,意識的選択者としてのユーザーの存在だ。Sporeは実のところ自然選択によって進行するどころか,人為的な選択によって進む。プレーヤーを全能の創造主の位置に置くこのゲームは,ダーウィン的選択の現実世界ではなく,むしろインテリジェント・デザイン(知的設計者による生命創造)をシミュレートしている。

 Sporeは究極のコンピューターゲームであってコンピューターアニメーションの最高水準をいくものといえるかもしれない。このゲームはあなたにとって魅惑的かもしれないし退屈かもしれず,洗練されたものに思えるかもしれないしバカバカしいかもしれないが,ダーウィン的というよりはディズニー的であることは納得できるだろう。

著者

Ed Regis

科学ライター。生きた細胞を人工的に作る試みに関する最新刊「What Is Life?: Investigating the Nature of Life in the Age of Synthetic Biology」を含め,7冊の科学書がある。妻とともに,メリーランド州キャンプデービッド近くの山中に住んでいる。

原題名

The Science of Spore(SCIENTIFIC AMERICAN January 2009)

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