
あるタイプの生物は特定の状況では他の生物より多く生き残る。こうした生物は子孫も多く残せるので,時とともにますます増加する。こうして,自然が現在の環境に最もよく適応したこれらの生物を「選択」する。環境条件が変化すると,今度はたまたま新しい条件に最も適応しやすい性質を持っていた生物が優位になる。ダーウィンの進化論が画期的だったのは,自然の基本的な論理は驚くほどシンプルかもしれないことを明らかにしたからだ。
その単純さにかかわらず,自然選択の理論は紆余曲折の歴史をたどることになった。生物学者は「種は進化する」ことはすぐに受け入れたが,自然選択がほとんどの進化をもたらしているというもう1つの主張は認めなかった。実際,自然選択が重要な進化の推進力であることは,20世紀になってもなかなか認められなかった。
くちばしの形などといった形態の進化に関しては,自然選択がその主要な原動力であることを疑う余地はない。だが,DNAレベルではどうだろう? つい最近まで,DNAレベルの進化は木村資生が1960年代に提唱した「分子進化の中立説」によるメカニズムが主力で,自然選択はそれほど大きな貢献をしていないと考えられてきた。
近年のゲノム解析技術の進歩がこうした状況に一石を投じた。自然選択の基礎となる遺伝メカニズムに関して,綿密で実証的な分析が可能になったからだ。DNAレベルでの進化に,中立説のメカニズムは大いに貢献している。だが,自然選択による貢献度も予想以上に大きかった。
著者
H. Allen Orr
ロチェスター大学の教授でありシャーリー・コックス・カーンズ生物学講座を担当。コイン(Jerry A. Coyne)との共著で『Speciation(種分化)』がある。種分化と適応の遺伝的基盤を中心に研究している。ロンドン・リンネ協会のダーウィン・ウォレス・メダル,グッゲンハイム奨学金,デビッド・アンド・ルシル・パッカード奨学金,進化学会のドブジャンスキー賞を受賞。New Yorker誌とNew York Review of Books誌に多数の書評やエッセイを発表している。
原題名
Testing Natural Selection(SCIENTIFIC AMERICAN January 2009)
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