日経サイエンス  2009年3月号

ノーベル賞受賞記念

対称性の自発的破れとひも理論

南部陽一郎(シカゴ大学)

 南部陽一郎氏が2008年のノーベル物理学賞を受賞した。「小林・益川理論」を提唱した小林誠,益川敏英両氏との共同受賞だが,益川氏は南部氏との共同受賞の感想を聞かれると感極まって絶句した。20世紀半ば,南部氏の歩みは素粒子論の歩みでもあった。受賞業績である「対称性の自発的破れの発見」のほか,素粒子クォークを結びつける「強い力」の理論,量子色力学でパイオニア的業績を上げた。現在の最先端の素粒子理論「超ひも理論」の源流は南部氏の「ひも理論」にある。

 

 湯川秀樹博士が創設した京都大学基礎物理学研究所において,2005年11月に研究会「学問の系譜 ─アインシュタインから湯川・朝永へ─」が開かれ,南部氏は「基礎物理学──過去と未来」と題して講演した(上)。座長は益川氏が務めた。南部氏は自身の東京帝国大学物理学科の学生時代から話を始め,軍隊時代,終戦直後の東大での住み込み時代,焼け残った小学校を校舎とした大阪市立大学時代,そして世界の物理研究の中心,プリンストン高等研究所からシカゴ大学での研究生活に至る半生を振り返った。

 

 研究会の参加者は日本を代表する物理学者ばかりで,話の内容は専門家でなければ完全な理解は難しい。しかし,そうであっても南部氏がたどった波瀾万丈の歩みや,物理学を革新するいくつもの理論がどのように発想されたのか,その一端はうかがい知ることができる。

 

 この講演の模様は,素粒子論グループの機関誌『素粒子論研究』の2006年3月号に収載された。今回,南部氏のノーベル物理学賞受賞を記念し,氏と同誌の了解を得て,その抜粋を再構成して掲載する。登場する人々はすべて物理学史に名を残す研究者で,ノーベル賞学者も多数含まれる。本文は,ほぼ氏の語り口そのもので,人となりが表れている。

著者

南部陽一郎(なんぶ・よういちろう)

2008年ノーベル物理学賞を受賞。1921年東京都生まれ。42年東京帝国大学卒業,同大学助手を経て,朝永振一郎博士の推薦で49年大阪市立大学の助教授に就任,50年同大学教授,52年理学博士(東京大学)。同年,朝永博士のの推薦でプリンストン高等研究所に。56年シカゴ大学助教授,58年同大学教授,91年同大学名誉教授。渡米後米国籍を取得。文化勲章など内外の受賞多数

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