
宇宙における物質と反物質の不均衡の根源は素粒子の世界における粒子と反粒子の振る舞いの違い「CP対称性の破れ」にある。1973年,小林誠(こばやし・まこと)・益川敏英(ますかわ・としひで)両氏は,この破れを説明する「小林・益川理論」を提唱,2001年,巨大加速器を使った実験で検証され,2008年ノーベル賞を受賞した。理論提唱から検証まで約30年もの歳月を要したが,その間,理論研究を深化させ,検証実験の実現に向けて世界を動かした研究者がいた。それが三田一郎(さんだ・いちろう)氏だ。小林・益川理論の“育ての親”と言える三田氏の協力を得て,検証実験までの歩みを振り返る。
米中西部を代表する総合大学の1つイリノイ大学。1963年,そこの物理学科で学ぶ日本人学生がいた。現名古屋大学名誉教授の三田氏だった。イリノイ大学には当時,日本の理論物理学者として名高い西島和彦(にしじま・かずひこ)氏がおり,三田氏も西島氏の講義を受けたが,それにも増して印象に残っているのが力学の授業だった。
「力学の授業は朝8時に始まったが,先生は黒板に書く式をよく間違えた。私たちはその誤りを先生に指摘するのを楽しみにしていた」。先生の名前はアバーシャン(Alexander Abashian)。「後で知ったのだが,彼はそのころ毎日徹夜で実験していて講義を終えてから寝に帰っていた」。アバーシャンらイリノイ大学の研究グループは当時の常識では考えられない不可解な実験データに頭を悩ませていた。「それが私と『CP対称性の破れ』との出会いだった」(三田氏)。
著者
/ 三田一郎(さんだ・いちろう)
協力:三田一郎(さんだ・いちろう) 名古屋大学名誉教授,神奈川大学教授。イリノイ大学を卒業後,プリンストン大学大学院でPh. D.を取得。コロンビア大学,米国立フェルミ加速器研究所,ロックフェラー大学を経て名古屋大学教授に就任。仁科記念賞,米J. J. サクライ賞などを受賞。
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