
現代の化学者にとってDNAの構造はたいして面白いものではない。生命にとってのDNAの重要性はよく知られているが,化学者にとってはDNAは何の役にも立たない単なる均一な2重らせん構造の分子にすぎない。この分子が多くの可能性を秘めたまったく新しい研究分野の基本材料と聞いたら,びっくりするだろうか。その分野は合成化学や酵素学,構造ナノテクノロジー,計算機科学など多岐の分野にまたがっている。
私たちはその新分野での成果として,水溶液中で動作可能な分子版の論理ゲート,“DNAゲート”を構成した。DNAベースの演算モジュールを作る最終目的は,ナノサイズの機械を開発することだ。その機械は生体内で動作し,状態を読み取って適切な決定を行い,投薬や特定の細胞を殺すといった応答をする“DNAドクター”だ。
私たちは「三目並べ」の完全無敵なオートマトン(自動機械)を作ることで,DNAゲートの能力の一端を証明した。人間は,自らの指し手を決めたら,その手を打つマス目に対応するDNA鎖の溶液をすべてのマス目に加える。すると,DNAコンピューターはある1つのマス目を光らせて次の手を示す。DNAゲートの判断は正確きわまりなく,人間はちょっとでもミスを犯せば必ず負けてしまう。
著者
Joanne Macdonald / Darko Stefanovic / Milan N. Stojanovic
3人はそれぞれまったく異なる専門をDNAプログラミングに持ち込んだ。マクドナルドはコロンビア大学の特別研究員。臨床薬学および実験治療部門で生物学関連の研究を行い,DNAコンピューターの実用としてウイルスの検出に取り組んでいる。ステファノビッチはニューメキシコ大学計算機科学准教授で,計算機のメモリー管理アルゴリズムを研究。全米科学財団(NSF)のキャリアアワードを受賞している。ストヤノビッチはコロンビア大学臨床薬学および実験治療部門の副部門長であり,NSF分子サイバネティクスセンターのセンター長。白血病・リンパ腫学会フェロー。MAYAは彼の娘の名にちなんでつけられた。
原題名
DNA Computers for Work and Play(SCIENTIFIC AMERICAN November 2008)
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