日経サイエンス  2009年2月号

スペシャルリポート:エイズウイルスへの挑戦 

ワクチン開発は続く

D.I.ワトキンス(ウィスコンシン大学)

 1983~84年にエイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)が特定されると,感染を予防するワクチンがすぐに開発されるだろうと専門家を含めた誰もが思った。だが,その楽観論を裏切り,25年たった今も効果的なワクチンはない。

 

 HIVワクチンが難しいのは,このウイルスが感染者の体内でどんどん変異して姿を変えるからだ。せっかくワクチンによって免疫系が迎撃態勢を整えるように仕向けても,変異したHIVは認識されにくい。

 

 最近になって,期待のワクチン候補が開発中止になる例が相次いだことから,米国立衛生研究所(NIH)はワクチン開発よりも基礎研究に力を入れるとの方向転換をした。たとえば,これまでの失敗の原因を徹底的に調べることや,HIVに感染されながらもその複製が本人の免疫系によって自然に抑えられている「感染克服者」を調べることなどだ。研究者間のネットワークを強化するコンソーシアムも設立された。HIVは手強い相手だが,科学者たちは決してあきらめてはいない。

 

 

再録:別冊日経サイエンス188 「感染症 新たな闘いに向けて」

著者

David I. Watkins

ウィスコンシン大学マディソン校で免疫生物学を研究し,同大学の病院のために分子診断学研究室を率いている。HIVとエイズに関する長期にわたる研究でエリザベス・グレーザー科学者賞を受賞し,米国立衛生研究所のエイズワクチン研究小委員会の委員を務める。ウィスコンシンの研究室では,ヒトの免疫反応や効果的なワクチンの開発方法を解明しようと,HIVによく似たサル免疫不全ウイルス(SIV)の研究もしている。

原題名

The Vaccine Search Goes On(SCIENTIFIC AMERICAN November 2008)

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