
1990年代半ばに花開いたワールドワイドウェブ(WWW)は爆発的に普及し,今では150億を超えるウェブページがあらゆる面で現代生活に影響を与えている。ウェブ頼みの仕事は増え,報道機関や銀行,保健医療はウェブによって様変わりした。一国の政府でさえ,国の運営にウェブを活用しようとしている。
ところが,ウェブが単なる“ページの集まり”ではないことはあまり知られていない。ウェブは莫大な創発的な特性を生み出し,社会を変えてきた。創発とは,個々の動きが複雑に相互作用すると,それぞれの性質からは予測できないようなシステムが出来ることを意味していて,例えば,電子メールがインスタントメッセージを生み,インスタントメッセージがソーシャルネットワーク(Facebookなど)を生んだ。文書転送がファイル共有サイト(Napsterなど)を生み,ファイル共有サイトがユーザー参加型ポータル(YouTubeなど)を生んだ。そして,ファイルなどのコンテンツにタグという目印を付けたことが,オンラインコミュニティーの誕生につながり,そこではコンサートのニュースから育児のヒントに至るまで,ありとあらゆる情報が共有されている。
しかし,そうした創発的特性がどのように生じたのか,どのように利用できるのか,今後どのような現象が生まれるのか,それが人類にとってどのような意味を持つのかを研究する人はほとんどいない。そうした問題の解明を目指す学問として,「ウェブサイエンス」という新しい科学領域が生まれた。
この新しい学問は,ウェブの構造をモデル化すること,驚異的な成長を可能にする構成原理を解明すること,インターネット上の人間関係がどのように進展し,社会慣習をどう変えるのかを明らかにすることを目指している。そして,ネットワークがこれからも生産的な成長を続け,プライバシー保護や知的財産権などの込み入った問題に対処していくための原理を解明していく。そのためには,数学や物理学,コンピューターサイエンス,心理学,生態学,社会学,法学,政治学,経済学などの知識を借りることになるだろう。
著者
Nigel Shadbolt / Tim Berners-Lee
シャドボルトは人工知能を専門とする英国サウサンプトン大学の教授で,セマンティックウェブ企業ガーリックの最高技術責任者を務める。英国コンピューター学会の前会長でもある。バーナーズ=リーはワールドワイドウェブの生みの親で,ワールドワイドウェブコンソーシアム会長。マサチューセッツ工科大学を拠点に研究を続けている。
原題名
Web Science Emerges(Scientific American October 2008)
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