日経サイエンス  2008年12月号

特集:ネットが蝕むプライバシー 

ここまで来た生体認証

バイオメトリックス

A. K. ジャイン(ミシガン州立大学) S. パンカンティ(IBM)

 読者の多くは,何枚ものカードと本人確認用のパスワードの山に頼って日々の生活を送っていることだろう。そんな日常で,カードを紛失するとATMから現金を引き出せなくなる。パスワードを思い出せないとコンピューターも言うことを聞かない。さらには,カードやパスワードが他人の手に渡れば,安全対策だったはずのものが,詐欺やなりすましの道具にまでなってしまう。生体認証(バイオメトリックス),すなわち身体的特徴や行動的特徴を利用した自動個人識別には,こうした問題点の多くを克服できる可能性がある。

 

 キャッシュカードなどのアイテムや暗証番号のような秘密情報に比べると,生体情報はどこかに置き忘れたり,番号が思い出せないといった心配がなく,複製や共有,推測がきわめて困難だ。実際,ある人が偽名を使って運転免許証やパスポートなどを複数取得している例を見破るには,生体情報で確かめるしかない。その上,簡単に本人であることを証明できる。

 

 こうした理由で,近年,生体認証システムが広まりつつある。例えば,指紋認証が可能なノートパソコンや携帯電話がすでに発売されているし,一部の国ではキャッシュカードやパスポートの安全性強化,建物への立入許可,社会保障費の受給権の確認などに生体認証システムを利用している。こうしたシステムは完璧とは言い難いが,今や安価なセンサーと高性能なマイクロプロセッサーの登場で,生体認証技術の普及がさらに進むのは確実だ。

著者

Anil K. Jain / Sharath Pankanti

ジャインはミシガン州立大学の計算機理工学科,電気計算機工学科,確率・統計学科教授で,生体認証に関する著作がある。パンカンティはニューヨーク州ヨークタウン・ハイツにあるIBMトーマス J. ワトソン研究所コンピュータービジョングループ長で,汎用の物体認識システムを開発中。2人とも指紋認証関連の特許を多数保有する。

原題名

Beyond Fingerprinting(SCIENTIFIC AMERICAN September 2008)

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