
昔から密談には盗聴がつきものだった。応接間で重要な話し合いが行われると,誰かが軒下にこっそり忍びこんで盗み聞きしたものだ。電話が普及すると,通話が盗聴されるようになった。そして現在では,非常に多くのやりとりがサイバー空間で行われるようになり,スパイもその領域に入り込むようになってきた。
現実世界と違い,サイバー空間は人間が創った世界だ。諜報活動とプライバシー,セキュリティーが互いにどのように関係し合うかは,サイバー空間について人間が作り出す規則やデザイン,投資で決まるだろう。米国では諜報活動に特権を与え,政府によるサイバー空間での通信傍受能力を強化しようとする動きがある。これが犯罪やテロの対策として有効なのは明らかだ。
一方,やや見えにくいが短所もある。通信傍受のためのインフラを加えれば,ビジネス革新を生んできたインターネットの柔軟・機敏なボトムアップ構造が弱体化しかねない。傍受インフラの導入費用負担により,国内の多くの小さなインターネットプロバイダーが廃業に追い込まれるだろう。ネット傍受に必要なトップダウン型の管理体制は,通信業界のリーダー・革新者としての米国の地位を脅かすことにつながる。
さらに,ネット通信傍受能力の強化に重点を置きすぎると,国民の自由を侵す可能性がある。また,サイバー空間の安全性,ひいては国の安全保障が損なわれる危険もはらんでいる。米国が大規模な傍受システムを一般の通信システムに組み込んだ場合,その悪用を防げる保証はあるだろうか? 警察や諜報機関が,腐敗や過剰な熱意から合衆国憲法を侵し,傍受システムを使って国民を見張ることもありうる。
そして,どんな傍受能力にも,それが悪の手にわたるリスクがある。犯罪者やテロリスト,外国の諜報機関が米国の監視システムに接続し,それを使って米国を攻撃してくるかもしれない。
著者
Whitfield Diffie / Susan Landau
ディフィーは公開鍵暗号法の発明者。1990年代に公共政策に関心を持ち始め,政府によるキーエスクローの推進と暗号を組み込んだ製品の輸出規制への反対運動で重要な役割を果たした。現在サン・マイクロシステムズのセキュリティー担当最高責任者であり,安全性と諜報活動に対するウェブサービスとグリッドコンピューティングの影響を研究している。ランダウはサン・マイクロシステムズ研究所の技術者。安全性や暗号,政策について研究し,監視とアイデンティティー管理の問題にも取り組んでいる。以前は,マサチューセッツ大学アマースト校とウェスリアン大学の教員として代数アルゴリズムを研究していた。
原題名
Brave New World of Wiretapping(SCIENTIFIC AMERICAN September 2008)
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