
ヒトは5つの味を感じる。「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」だ。これらの味を感じるメカニズムが,近年の研究で明らかになった。舌や口に点在する味蕾(みらい)にいくつかの味細胞があり,各味細胞はその表面にあるセンサー(受容体)を使っていずれかの味を専門に感知している。甘味細胞にある甘味受容体は甘味を,うま味細胞にあるうま味受容体はうま味を感じるといった具合だ。甘味受容体が砂糖分子と結合すると,味蕾は脳に甘味シグナルを送る。砂糖分子が多いと,甘味受容体と砂糖分子の結合数が増え,脳に送られる甘味シグナルは強くなる。
こうした受容体の構造と機能を逆手にとって,私たちが口にしたときに感じる味を変えてしまおうという研究が進んでいる。すでにうま味を強める「うま味増強剤」が市販の食品に試験的に添加されており,来年には甘味を強める「甘味増強剤」を添加した食品が店頭に並ぶ予定だ。
味増強剤自体には味がない。甘味増強剤の役割は,甘味受容体と砂糖分子が結合する割合を高めることだ。砂糖分子が少ししか存在しないときでも,効率よく甘味受容体と結合するので,甘味を強く感じるというわけだ。
味増強剤を使うことで,「おいしい食品」は「体によい食品」になる可能性がある。おいしい食品は概して砂糖や塩をたっぷり含んでおり,多量に消費すると健康問題,すなわち肥満や心臓病につながりかねない。味増強剤を使えば,食品の味を保ったまま砂糖や塩の量を減らすことができるのだ。カロリーや塩分を以前の数分の1に抑えた食品を食べているのに消費者はその違いに気づかないーー数年後にはそんな状況が実現するかもしれない。
著者
Melinda Wenner
ニューヨークを拠点にするフリーのサイエンスライター。
原題名
Magnifying Taste(SCIENTIFIC AMERICAN August 2008)
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