
農地のことを耕作地とも呼ぶように,農業にとっては「耕す」という行為はあたりに当たり前のことだ。だが,種をまく前に土壌を掘り返すことが,土壌が流失する大きな原因となっている。土壌がなくなってしまうと,そこではもはや農業は営めない。持続可能な農業にするにはどうすればよいか? その答えの1つが耕すのを止める,つまり不耕起農法だ。米国や南米・中米諸国では,奨励策の後押しもあって不耕起農法が少しずつ広がりつつある。
耕すことを止めた畑からは,流出する土壌は激減する。地面に染み込む前に地表を流れてしまう水も減る。収穫までに必要な農作業の回数そのものも減る。耕した畑に比べると不耕起農法の畑は土壌生物の種類も多い。だが,種まきに特殊で高価な農耕機が必要になる,少なくとも最初のうちは収量が安定しない恐れがある,除草剤の使用量が増えるなどのデメリットもある。こうした点もあってかアジアやアフリカの貧しい国では,なかなか不耕起農法が広まらない。本来ならば,保全農法を最も必要としているのはこうした国々なのだ。
著者
David R. Huggins / John P. Reganold
ハギンズ(左)はワシントン州プルマンにある米国農務省農業研究部土地管理および水保全研究ユニットの土壌学者。保全的な作付体系と,土壌の炭素や窒素の循環や流れを専門としている。レガノルド(右)はプルマンにあるワシントン州立大学の土壌学教授。持続的農業が専門でSCIENTIFIC AMERICANへの寄稿は3回目。
原題名
No-Till: The Quiet Revolution(SCIENTIFIC AMERICAN July 2008)