
新しく合成されたタンパク質がきちんとした立体構造をとるのを手助けしたり,ふさわしい場所に連れて行ったり──熱ショックタンパク質は細胞が高温にさらされたときに,とくに活発になるためにこの名がついたが,普段でも忙しく働いて,細胞のメンテナンスをしている。細胞活動を支える要のタンパク質だ。
バクテリアのような単細胞生物から哺乳類のような複雑な生物まで,あらゆる生き物の細胞では熱ショックタンパク質が働いている。このため,生命と誕生とほぼ同時期に登場したタンパク質だと考えられている。
最近になって,哺乳類での免疫系という進化史の中では新しいシステムの中で,この熱ショックタンパク質がきわめて重要な役割を果たしていることがわかってきた。免疫反応が生じるための“最初の一歩”に,熱ショックタンパク質がかかわっているのだ。
とくに注目すべきは,自分自身の細胞が暴走してしまう「がん細胞」に対しての免疫反応を起こせる点だ。熱ショックタンパク質のこの性質をいかしたがんワクチンが,すでに欧米で臨床試験に入っており,ロシアでは2008年春に第一号が認可された。
著者
Pramod K. Srivastava
コネティカット大学医学部がん・感染症免疫治療センターの教授,センター長。大学院生時代に始まる一連の発見にあるように,熱ショックタンパク質の免疫システムにおける役割研究のパイオニア。個々の患者のがん組織より抽出した熱ショックタンパク質を用いて,がんワクチン開発を進める企業アンティジェニクスを創設した。すでに同社からは退いているが,熱ショックタンパク質をもとにしたワクチンの研究は今でも継続中。
原題名
New Job for Ancient Chaperones(SCIENTIFIC AMERICAN July 2008)