
日本や欧米など多くの先進国では適度の降水があり,慢性的な水不足に悩む国はほとんどない。そのためごく安価な水を,飲み水や生活用水だけでなく農業や工業に大量に使用している。それに対し,アフリカやアジアでは多くの途上国が水不足に苦しんでいる。水不足には物理的に水が足りないだけでなく,供給可能な水がありながら,供給システムの不備や政府の問題などから経済的に水が得られない「経済的水不足」もある。これらの国では,貧しい人々の多くはわずかな水を得るために高い代価を支払わなければならない。こうした問題に対しては,国際的な支援も必要だ。
もともと自然の水の供給が少ない乾燥地帯でも,効率的に水を得る方法はある。「仮想水」の輸入だ。生産・製造するのに多量の水を必要とする食料や製品を輸入すれば,間接的に水を輸入するのと同じことになり,それだけ国内での水の消費が少なくてすむ。逆にたとえば先進国が途上国の水を使用する食料・製品を輸入すると,それだけ途上国の水を消費したのと同じことになる(ウォーターフットプリント)。
今後は,急激な人口増と所得増が予測される中国やインドといった国々での水不足が懸念される。だがこれらの国々は十分な給水設備がまだ整備されていないので,経済発展で得られた資金を振り向ければ,水の利用の効率が改善し,危機を避けられるかもしれない。
先進国でも,地域によっては都市や農業・工業での大量の水の使用,排水汚染などにより,生態系に悪影響が及んでいる例もある。本文では水問題の解決のために,水の値上げ,灌漑用水の節約,トイレの節水とリサイクル,水道設備への投資,「仮想水」の供給,海水淡水化技術という6つの対策を提案している。
著者
Peter Rogers
ハーバード大学で1966年にPh.D.を取得。現在は同校の環境工学および都市地域計画の教授。世界的な水管理の向上に取り組む機関,「世界水パートナーシップ」の相談役を務める。グッゲンハイム・20世紀基金奨励賞も受賞。
原題名
Facing the Freshwater Crisis(SCIENTIFIC AMERICAN August 2008)