日経サイエンス  2008年10月号

「究極の血液検査」を受けてみた

P. ヤム(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 いっぺんに250のバイオマーカーを調べて健康リスクを判定する血液検査サービスが米国で商品化されている。実際に試してみた。

 

 めまいと吐き気が治まり始めたとき,私は大さじ2杯分の採血なんてたいした量じゃないとなぜ思ったのか,考え続けていた。定期健診なら,採血量はその半分ほどだ。

 

 採血した看護師は親切にも,私のオフィスを見回して甘い飲み物を探してくれた。「ソーダかジュースはありませんか」と彼女は尋ねた。しかし,私が持っていたのはダイエットコーク1缶のみ。これはある意味で,皮肉なことだった。私はずっと普通のコークを飲んでいたのだが,以前の血液検査でトリグリセリド(中性脂肪)の値が高すぎることがわかってシュガーレスに替えたのだった。

 

 でも,一時的に具合が悪くなったとはいえ,いっぺんに250の血液検査を済ませられるのだから,我慢できるだろう。もし従来法で個別に250の検査をするとしたら,1リットルの血液が必要になると聞かされていた(その場合のめまいと吐き気はいったいどの程度になることか)。ということで,バイオフィジカル社のために一肌脱ぐというか,袖をまくって採血を受けることにした次第だ。

 テキサス州オースティンに本社を置くこの企業は,未発症のがんや免疫障害,隠れた感染症,ホルモンのアンバランス,栄養不足を血液検査によって検出できるという。

 

 同社が「バイオフィジカル250評価」と呼ぶこの検査は,たくさんの検査を単にセットにしたものではない。病歴の聞き取り調査を含み,看護師が自宅か勤務先に採血しに来てくれる(私の場合は,自宅に来てもらうべきだった。家なら砂糖があったのに)。そして医師によるフォローアップ相談。これらの処置もろもろで,安くはない。料金は3400ドル,健康保険は利かない。

 

 同社によると,各項目を個別に検査すると10倍の費用がかかるので,それに比べれば“お買い得”という。でも,あなたにそこそこの可処分所得があるか,雇用主にとってあなたが不可欠の存在で検査費用を会社がもってくれないと無理だ。私はどちらにも該当しない。しかし,この製品を科学記者として評価するということで,同社は私の血液検査を無料で行ってくれた。

 

 検査は血液バイオマーカーに絞った解析だ。バイオマーカーは,その存在や存在量が身体の異常を示す化学物質のこと。よく知られているものに,心血管障害に関する高密度リポタンパク質と低密度リポタンパク質(HDLとLDL,いわゆる善玉および悪玉コレステロール),トリグリセリドがある。

 

 一度に250ものバイオマーカーを検査するなど,やりすぎに思えるかもしれない。定期健診で調べるのは20数個から30数個だ。しかし,個別のバイオマーカーを見ても特に有益な情報は得られないのがふつうで,例えばHDLとLDLのそれぞれ単独の値よりも, HDLに対するLDLの比率のほうが重要だ。バイオフィジカル250はこれをさらに徹底的に追求する。

 

 複数のバイオマーカーを一緒に調べることによって,特に悪性腫瘍などの問題を早期発見できる確率が上がる。がん患者も健康な人もバイオマーカーの種類や量に差がないことがあるので,がんを血液検査で発見するのは難しい。そのうえ,がん患者でバイオマーカーが必ず現れるとも限らないし,がんとは無関係の病気から同じバイオマーカーが生じることもありうる。バイオフィジカル250では,がんの活動一般に関連する約50の血中化学物質を調べ,症状が現れる前にがんを検出する確率を上げようとしている。

原題名

The Ultimate Blood Test(SCIENTIFIC AMERICAN BODY December 2007)

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