
「マルチタッチスクリーン」を使えば,マウスやキーボードなしで効率よい共同作業を実現できそうだ。いずれマウスに代わってインターフェースの主流となる可能性を秘めている。
昨年に登場したアップルの携帯電話iPhone(日本では今年7月発売)はマルチタッチスクリーンを搭載した初の一般向け製品だ。スクリーン上の画像を指先であちこちに動かせるほか,画像の端に2本の指先を当てて指を開閉すると画像を拡大・縮小できる。この便利で心地よい感触のインターフェースはたちまち人気を呼んだ。しかし当時すでに,マルチタッチスクリーンは世界中の研究所で2本指操作を大きく超えて進化していた。
ニューヨーク大学のコンピューター科学者で,パーセプティブ・ピクセル社(ニューヨーク)の創設者でもあるハン(Jeff Han)は,マルチタッチスクリーン技術の最先端にいる人物だ。同社が開発した壁ほどの大きさのスクリーンは,10本の指先や複数の手による入力に対応している。
指先で触れるだけで10以上の動画を同時に表示できるが,通常のパソコン画面などと違って操作用のツールバーは見当たらない。違うファイルを呼び出したければ,画面を2回タップ(軽くたたくこと)して,表やメニューを立ち上げる。これらもまた,タップによって操作できる。技術的に重要なポイントは,指紋認証機器にも使われている「漏れ全反射」という光学効果を利用して指先を光学的に追跡するようにしたことだ。
このシステム一式を早期に導入した顧客のなかに,米国の諜報機関がある。またCNNテレビは大統領予備選挙の報道で使い,全米50州の地図を派手に映し出した。ニュース解説者たちはスクリーンの前に立ち,地図上で指先を動かすだけで,州はもちろん郡まで劇的に拡大・縮小して,投票結果を伝えた。今後はエネルギー取引や医療現場など,画像を多用する業務分野で使われるようになるだろうとハンは予想する。
このほかマイクロソフトや三菱電機米国研究所はやや小振りのスクリーンを開発し,ホテルや店舗,建設会社やデザイン企業向けに特化したシステムを提供している。
マルチタッチインターフェースによって,私たちはいまやどこにでもあるマウスから解き放たれるのだろうか。「本当に新しいユーザーインターフェースというのはめったにない」とハンはいう。「すべてはまだ始まったばかりだ」。
著者
Stuart F. Brown
技術と工学をカバーする科学ライター。本誌にはこれまでに3次元ディスプレーに関する記事「これぞ立体画像 3Dボルメトリック・ディスプレー」(日経サイエンス2007年9月号)を執筆した。ニューヨーク州アービントン在住。
原題名
Hands-on Computing(SCIENTIFIC AMERICAN July 2008)
サイト内の関連記事を読む
キーワードをGoogleで検索する
Surface/グラフィカル・ユーザー・インターフェース/マルチユーザー・タッチテーブル/導波路/静電結合