
住血吸虫は,その名のとおり血管に住みついて血液を餌とする寄生虫だ。日本では近年,感染が報告されていないが,世界では約2億人が感染しており,死者の数は年間20万人にものぼる。特にサハラ以南のアフリカ諸国では深刻な問題になっている。感染すれば腸や膀胱,脾臓や肝臓が侵され臓器不全を引き起こす。そのうえ労働能力も下がるので,感染した本人だけでなく社会全体も大きな痛手を被る。
この寄生虫に感染するのは,幼虫が生息している水に接したときだ。幼虫は中間宿主となる巻き貝の中で無性的に増殖する。水辺環境を整備したり貝を駆除すればこの感染症を減らせるが,貧困が原因で衛生状態が悪い地域では難しい。
安価な治療薬も存在するが,再感染は防げない。必要なのは侵入してきた吸虫を速やかに攻撃して発病を防ぐか寄生している吸虫を排除できるようなワクチンだ。典型的なワクチンは,死ぬか不活化した病原体や病原体由来の成分(多くはタンパク質)を投与して,あたかも本当に感染したかのように免疫系を活性化させるものだ。ところが,住血吸虫は独自の方法で私たちの免疫系から逃れており,ワクチン開発は難航していた。
最近,住血吸虫の全DNA配列が明らかになり,住血吸虫の遺伝子の機能を調べるための手法も発達してきた。こうした新たな技術は住血吸虫の秘密を解き明かし,ワクチン開発のための強力な武器となるだろう。
著者
Patrick Skelly
キャンベラにあるオーストラリア国立大学校でPh. D.を取得し,現在はタフツ大学獣医学部カミングス校の医学生物学助教。またニューイングランド寄生虫学会会長も務めている。
原題名
Fighting Killer Worms(SCIENTIFIC AMERICAN May 2008)
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