
身体の健康を保つには,細胞の健康を維持することが重要かもしれない。細胞内の環境を改善し,機能を維持するのに「オートファジー」と呼ばれるシステムが大きな役割を果たしている。オートファジーは細胞の掃除システムであり,細胞内の不要物質を捕らえて分解する。
細胞内でのオートファジーの役割は非常に幅広い。正しく機能しなくなったタンパク質や細胞小器官が細胞内にたまって問題を起こす前に,オートファジーはそれらを取り除くことができる。また,細胞が飢餓状態に陥ったときには,タンパク質などの細胞構成物質を消化し,生存に必要な栄養やエネルギーとして供給する。外部から侵入してきた病原体を直接捕らえて分解することもできるし,病原体に対する免疫応答にもかかわっている。
このようにオートファジーは細胞内のさまざまな場面に関与しているため,オートファジーの働きが悪くなったり停止したりすると,細胞は大混乱に陥り,私たちの健康にも大きな影響を与える。
例えばアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では,不十分なオートファジーが問題になっている。加齢に伴ってがんや神経変性疾患などの病気にかかりやすくなるのは,オートファジー効率の低下に一因があるかもしれない。異常なタンパク質や細胞小器官を効率よく取り除けなくなれば,細胞内でダメージが蓄積し,病気を引き起こすだろう。
オートファジーを思い通りに制御できるようになれば,病気の治療に応用したり,老化を遅らせることさえできるかもしれない。そのためにはオートファジーの詳細な分子メカニズムを明らかにする必要があるだろう。本文では,オートファジーのメカニズムのほか,細胞死や疾病との関連性についても紹介する。
著者
Vojo Deretic / Daniel J. Klionsky
デレティックはニューメキシコ大学衛生科学センター分子遺伝学微生物学部門の教授。細胞生物学と生理学の教授でもある。ベオグラード,パリ,シカゴで教育を受けた。オートファジーの生物学的システムと免疫系への関係に興味をもっている。クリオンスキーはミシガン大学生命科学研究所のA. G. ラスベン生命科学教授。J. S. グッゲンハイム記念財団の特別研究員と全米科学財団の殊勲学者でもある。Autophagy誌の編集長も務めている。
原題名
How Cells Clean Houses(SCIENTIFIC AMERICAN MAY 2008)
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