
地球外生命を探す試みは,もはやSFやUFOハンターの世界にとどまらない。宇宙人の到来を待つのではなく,私たちのほうが彼らを探す時代になった。科学技術の進歩した文明は見つからないかもしれないが,基本的な生命現象の物理的・化学的な証拠ならば見つかる可能性がある。
太陽以外の恒星を中心星とする惑星は,すでに200個以上が見つかっている。太陽系の外にあることから「系外惑星」と呼ばれるこれらの天体に生命が存在するかどうかは現時点では断言できないが,生命発見は時間の問題だろう。2007年7月には,ある系外惑星の大気を通過した光のスペクトルを観測していた天文学者のグループが,水蒸気の存在を確認している。今日,地球と同程度のサイズの惑星における「生命が存在する証拠」を光のスペクトルを観測してとらえるために,各国の宇宙機関が望遠鏡の開発を進めている。
生命存在の証拠の中でも,「光合成」は際立ってはっきりとした目印になると考えられている。他の惑星で光合成が行われている可能性はどのくらいかと聞かれれば,「きわめて高い」というのが答えだ。地球上では,光合成は活発に行われており,ほぼすべての生命を支える基盤となっている。
光合成の存在を示す証拠にはおもに2つの種類が考えられる。1つは,光合成によって発生する酸素や,それが変化して生じるオゾンなどの大気中のガス。もう1つは色で,これは緑色のクロロフィルなど,特定の色素が惑星表面を覆うことを手がかりにする。だが,どの色を探せばよいのだろう?
地球上でも,緑色植物のほかに多様な光合成生物が存在する。例えば一部の陸上植物の葉は赤いし,水中に目を転じれば多彩な色の藻類や光合成細菌があることに気づくだろう。紅色細菌は,可視光に加えて赤外光も吸収している。別の惑星では,どの波長の光が光合成のおもな光源となっているのだろう? どうすればそれを知ることができるだろう?
決め手となるのは,惑星表面に届く光のスペクトルだ。それは,恒星の型によってほぼ決まる。恒星は,表面の色によって分類されており,その色は大きさや温度,寿命とも関係がある。複雑な生命体が進化するには長い時間がかかるが,それだけの期間にわたって輝いていられるような長寿命の星はいくつかのタイプだけだ。温度の高いほうからF型,G型,K型,M型と呼ばれている。私たちの太陽はG型だ。F型星は大きく,明るく青味が強い。K型星やM型星は小型で,暗く赤味がかった光を放つ。
F型星やK型星をまわる惑星の植物は,地球の植物と同じような色を基本としながらも,やや異なる色をしているだろう。F型星の場合,大量に降り注ぐ高エネルギーの青色光子の影響が非常に強いため,日焼けを防ぐ“日よけ”色素によって青色光を反射している可能性があり,だとすればその植物は青色に見えるはずだ。
M型星の温度には年齢によって幅があるので,植物の色も非常に多様となる。静穏期のM型星をまわる惑星が受ける光エネルギーのほとんどは近赤外光だ。進化によって,さまざまな光合成色素が登場し,視光と赤外光の全領域の光子を吸収するように働いていることだろう。こうなると反射される光がわずかとなるので,この惑星の植物は黒く見えるはずだ。
著者
Nancy Y. Kiang
ニューヨークにあるNASAゴダード宇宙研究所の生物気象学者。専門は生態系と大気の相互作用のコンピューターシミュレーションで,気候の調節を目的としている。他の惑星に存在する生命の検出法を探るNASA宇宙生物学研究所内の「仮想惑星研究室」のメンバー。独立系の映画監督でもあり,短編映画「ソリダリティ」は全米各地で上映中。
原題名
The Color of Plants on Other Worlds(SCIENTIFIC AMERICAN April 2008)
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