
両生類のサンショウウオの脚は切断しても切り口から再成長して完全に再生する。しかも何度でも可能だ。サンショウウオはどうやってこの技を発揮するのだろうか?
人間でもサンショウウオでも,大きな傷に対する初期反応は変わらない。切り口の血管が収縮して出血を抑え,皮膚細胞の層が断面を覆う。このあと,サンショウウオの場合は,断面を覆った細胞層から再生シグナルが出て,線維芽細胞が集まり,新しい四肢をつくるための「再生芽」がつくられる。人間の場合,繊維芽細胞が集まるところまでは同じでも,再生芽をつくる能力は胎児のときにしか発揮されない。能力そのものは失われていないのだが,きわめて時間がかかる。その間に傷口をかさぶた(瘢痕)が覆ってしまうため,潜在的な再生のしくみが機能しない環境にあるといえる。
逆に言えば,瘢痕をつくらせずに,再生芽を誘導できればヒトでも再生の可能性が出てくる。実際に,指先程度の切断ならば,消毒して包帯で覆っておくだけで再生したケースがいくつも報告されている。
興味深いことに,サンショウウオの四肢再生には切断肢の位置情報が不可欠で,この情報は切断肢の反対側にある脚の線維芽細胞からもたらされる。位置情報を伝える過程でどのような遺伝子が活性化されているのかが突き止められれば,再生を調節している機構が明らかになるはずだ。
著者の一人,ムネオカは米国の四肢再生プロジェクトの中心人物。DARPA(米国防総省高等研究計画局)は数億円の研究費を提供している。戦場で手足を失った兵士をサポートことが大きな目的だ。哺乳類での研究はマウスの段階だが,傷環境を調整してサンショウウオ型の治癒を促すことで,将来ヒトの手足の再生も可能になると考えられる。
著者
Ken Muneoka / Manjong Han / David M. Gardiner
3人は哺乳類の四肢再生に向け,チームで研究を続けている。ムネオカをリーダーとするこのグループはヒトの四肢の再生を進めるため米国防総省高等研究計画局(DARPA)から数百万ドルの支援を受けているグループの1つだ。ムネオカはチューレーン大学教授,ハンは助教。ガーディナーはカリフォルニア大学アーバイン校の細胞・分子生物学教室の研究者。ルイジアナ州ニューオーリンズにあるチューレーン大学は2005年にハリケーンカトリーナに見舞われ,一時閉鎖された。ムネオカは家族や共同研究者とともにアーバインに移り,ガーディナーの研究室に5カ月間滞在した。
原題名
Regrowing Human Limbs(SCIENTIFIC AMERICAN April 2008)