日経サイエンス  2008年6月号

短期集中連載:カミオカンデとスーパーカミオカンデ 物理学を変えた四半世紀 3

崖っぷちからの再生

中島林彦(編集部) 協力:戸塚洋二(東京大学)

 2001年11月12日午前11時,岐阜県北部で小地震が起きた。震源は飛騨市神岡町茂住の地下1000m。そこには東京大学宇宙線研究所の戸塚洋二教授(当時)らが心血を注いで建設した世界最大のニュートリノ観測施設スーパーカミオカンデがあった。

 

 スーパーカミオカンデは5万トンの超純水を満たした円筒形の大型タンク。内壁全面に,巨大電球形の超高感度光センサー,光電子増倍管が取り付けられているが,底面の増倍管の1本が何の前触れもなく爆縮,生み出された衝撃波で近くの増倍管が連鎖爆縮し,その振動が地震波として地中に伝わった。ほんの数秒で約8000本の増倍管が破壊され,被害総額は約20億円に達した。

 

 スーパーカミオカンデの停止は世界のニュートリノ研究の停滞を意味した。研究グループの間に悲観ムードも漂ったが,研究代表の戸塚教授の思いは「つぶれてたまるか」だった。事故翌日,その決意を声明として発表,再生への第一歩となった。約1年後,奇跡的ともいえる短期間で観測が再開されたとき,大ニュースが飛び込んできた。

協力:戸塚洋二(とつか・ようじ)
東京大学特別栄誉教授,高エネルギー加速器研究機構名誉教授。スーパーカミオカンデの研究代表者としてニュートリノ研究の国際プロジェクトをリードする。東京大学宇宙線研究所長を経て高エネルギー加速器研究機構長に。2006年から日本学術振興会学術システム研究センター所長を務める。仁科記念賞,紫綬褒章,文化勲章,米ベンジャミンフランクリンメダル,米天文学会ロッシ賞,米物理学会パノフスキー賞,ロシアのブルーノ・ポンテコルボ賞,ヨーロッパ物理学会特別賞など受賞多数。学生時代から空手に打ち込み,酒をたしなむ。趣味は山野歩き。

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