日経サイエンス  2008年6月号

フッ素のとり過ぎにご注意

D. フェイギン(ニューヨーク大学)

 20世紀初め,米国の西部で「コロラド褐色斑」という歯の変色が発見された。この変色は特定の地域で生まれた人だけで,大人になって移住してきた人にはみられなかった。このことから,永久歯が生える前にフッ素を多く含む地元の飲料水を飲んだためであると推測された。

 

 だが同時に,この変色した「フッ素症」の歯は虫歯になりにくいことがわかった。その後半世紀以上にわたり,米国の多くの水道水でフッ素が添加されてきた。フッ素の含有量が多すぎる天然水では,フッ素を調整して減らした水が水道水として供給されている。

 

 虫歯を防ぎ,かつ健康に悪影響を及ぼさないとされるフッ化物摂取量は,体重1kg当たり0.05~0.07mgだ。水道水に含まれるフッ素は少ないが,フッ素配合の歯磨き剤,さらに加工食品や飲料に含まれるフッ素を加えると,適正範囲を超える可能性がある。身体が小さく,かつ歯にフッ素症を生じやすい幼児では,特に注意が必要だ。

著者

Dan Fagin

ニューヨーク大学新聞学科准教授で,科学保健環境報道プログラムの代表を務めている。Newsday紙の環境科学記者をしていた時代に書いたがん疫学に関する記事で2003年に米国科学振興協会の科学報道賞(the AAAS Science Journalism Award)を受賞。共著で Toxic Deception (Common Courage Press, 1999)を出版し,現在はニュージャージー州トムズリバーにおける,遺伝子・環境相互作用および小児がん集団発症に関する本を執筆中。

原題名

Second Thoughts about Fluoride(SCIENTIFIC AMERICAN January 2008)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

フッ化ナトリウムエナメル質斑状歯ヒドロキシルアパタイト骨格フッ素沈着症