日経サイエンス  2008年6月号

クロマグロ危機

R. エリス(アメリカ自然史博物館)

マグロと言ってもその種類はさまざまあるが,最高級魚として人気が高いのはクロマグロだ。このクロマグロに今,絶滅の危険が迫っている。

 

クロマグロはかつて米国ではイヌやネコの餌にしかならないと考えられていたが,寿司や刺身の人気が世界的に広がるにつれ,トリュフやキャビアと同じくらい高級な食材になった。沖合いで群れをなして泳いでいるクロマグロが高値で売れるとなれば,マグロ漁が盛んになるのは当然だ。その結果,クロマグロの数は絶滅が危ぶまれるほど激減した。国際的な漁業管理機関は漁獲量を厳しく設定しておらず,密漁も横行している。

 

クロマグロは減少したが,需要は今も増え続けている。需要を満たすために養殖も行われているが,そのほとんどは天然の若いクロマグロを捕獲していけすに入れ太らせてから出荷するというもので,繁殖可能なマグロの数を減らし,絶滅を加速している。

 

クロマグロを救うには,人工的な繁殖・育成方法を確立して実行するほかなさそうだ。すでに日本や欧州の研究グループは繁殖実験を進めている。オーストラリアの企業は環境条件を自在に制御できる水槽の中で産卵をコントロールし,稚魚を商業規模で生産しようとしている。

 

本文では,クロマグロに関する資源管理状況や現在開発が進められている人工繁殖技術について紹介する。

著者

Richard Ellis

ニューヨークのアメリカ自然史博物館の研究員。米国鯨類協会の特別顧問,探検家クラブ会員でもある。1980年から1990年にかけて国際捕鯨委員会の米国代表の一員にもなった。米国の有力な海洋保護者で,一般には世界の海洋自然史をテーマにした一流の画家として有名。彼のクジラの絵はブリタニカ百科事典やAudubon,National Wildlife,Australian Geographicなど多くの出版物に掲載されている。著書には The Book of WhalesやThe Book of Sharks,Imaging Atlantisなどがある。現在はマグロに関する本を執筆しつつ,アメリカ自然史博物館の「神話の生物展」の学芸員を務めている。

原題名

The Bluefin in Peril(SCIENTIFIC AMERICAN March 2008)

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