日経サイエンス  2008年3月号

人間のための自然保護

P. カレイヴァ(ネイチャー・コンサーバンシー) M. マーヴィエ(サンタクララ大学)

一見しただけではわからないが,人間の健康と絶滅種の救済は深い関連がある。湿原やマングローブなどの生態系は,暴風雨から人々を守ってくれる。森林やサンゴ礁は食料を提供し,収入をもたらす。ある生態系が傷つけば,資源や観光収入に依存する人々に損害を与えるだけでなく,地球の反対側の地域に悪影響が及ぶかもしれない。

 

こうした相互依存関係があるにもかかわらず,市民もまた一部の政府も,生物多様性の保護のための活動は,植物や動物を人間より優先するものだと考えるようになっている。こうした傾向を逆転させるために,そして人間と絶滅の危機に瀕する生物のためになるように,環境保全活動の優先順位を決めてきた従来手法を見直すべきだ。そして人間にとって価値のある生態系を救うことを重視する手法を選ぶべきだ,と私たちは多くの自然保護主義者とともに主張している。私たちの手法は,人間の健康と生活を守りながら,多くの種を救おうとするものだ。

 

環境保全は人間をないがしろにするものだと思われるようになったのは,動物や生息地を保護するために,何百万人もの人々が住み慣れた土地から退去させられたり,食料源や収入源を奪われたりしたせいでもある。

 

 

再録:別冊日経サイエンス226「動物のサイエンス 行動,進化,共存への模索」

 

著者

Peter Kareiva / Michelle Marvier

2人は長年にわたって共同研究を進め,北米北西部で遺伝子組み換え穀物やサケの研究を行ってきた。現在は環境保全のテキストを共同執筆中だ。カレイヴァは,ネイチャー・コンサーバンシーの主任研究員で,各地で国際プロジェクトへの指導や助言も行っている。マーヴィエはサンタクララ大学教授で,同大学環境調査研究所の所長を務める。2人は,環境保全と人間との関係をさらに深めなければならないと痛感している。

原題名

Conservation for the People(SCIENTIFIC AMERICAN October 2007)

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