
ナノテクノロジーには大きな可能性がある。しかし,微小なナノデバイスを動かすには乾電池とは違う電源,それにふさわしい小さな電源が必要だろう。
物体の振動や人間の脈拍などはエネルギーとしては利用されていないが,ナノデバイスを駆動するに十分な電力を生み出せる。現在,私たちの研究チームはそうしたエネルギーをもとに発電する小さな「ナノ発電機」を作ろうとしている。実現すれば,患者の身体に埋め込んで血糖値を常時監視するバイオセンサーや,橋梁などの構造物に取りつける自律的な歪みセンサー,環境中のあちこちに配置して有毒物質に目を光らせるセンサーなどが,電池交換なしに可能になるだろう。
ナノ発電機のアイデアは,2005年8月ころ,酸化亜鉛ナノワイヤの特性を計測したのがきっかけとなって生まれた。私たちは原子間力顕微鏡(AFM)を使ってナノワイヤを計測し,大きな電圧出力ピークをいくつか検出したのだが,これがいったい何なのかわからなかった。
その後,電圧の出所は酸化亜鉛の圧電効果であることがわかった。次のステップは,1本のナノワイヤからどのように電荷を取り出すかだ。半導体素子の専門書を調べ,私は実際的なメカニズムを提唱した。
酸化亜鉛は圧電材料であると同時に半導体でもあるという,まれな特徴を持っている。このおかげで,酸化亜鉛の圧電効果によって生じた電荷がナノワイヤに蓄積される。複数のナノワイヤの先端部を原子間力顕微鏡の探針がなぞっていくと,導電性の探針にナノワイヤの電圧出力が伝わり,各接触点に応じた多数のピークとなって顕微鏡画像に現れる。私たちはこの結果を見ていたのだ。
実用的なナノ発電機にするには,連続的に発電する多数のナノワイヤを並べ,それら電力を集めて目的の装置に供給できなくてはならない。また,電力のもととなるエネルギーは波動か振動の形で入力されなくてはならない。私たちはこれらの要請を満たす革新的な設計を開発した。多数の酸化亜鉛ナノワイヤを平行に立て,AFM探針の代わりに「うね状」の表面を持つ白金被覆シリコン電極を使う。電極を白金でコートしたことで,導電性が上がると同時に,電流を金属から半導体へと一方向にだけ流すダイオードの役割を持たせた。この電極をナノワイヤの上方に適切な間隔を置いて配置し,水平方向に動かすと,ナノワイヤが左右に曲がる。電極表面のうねのおかげで,多数のAFM探針が並んだアレイのように働くのだ。
ナノ発電機が私たちの家庭に電気を供給することは決してないだろうし,懐中電灯をともすこともないだろう。その発電量はごく小さい。しかし,間欠的に動作するだけでよい装置,例えば1分間に1秒だけデータを収集・伝送するセンサーなどには,もってこいの電源となる。
著者
Zhong Lin Wang
ジョージア工科大学ナノ構造キャラクタライゼーションセンター所長。1998年に世界最小の天秤「ナノバランス」を,2001年には「ナノベルト」を発見した。1999年の米国顕微鏡学会(MSA)バートン・メダルなど,多くの賞を受けている。
原題名
Self-Powered Nanotech(SCIENTIFIC AMERICAN January 2008)
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