日経サイエンス  2008年3月号

すばるで迫る暗黒エネルギー

中島林彦(編集部) 協力:須藤靖

 宇宙に存在する全エネルギーの7割強を占める正体不明の暗黒エネルギーの謎を解明しようと2007年,「暗黒エネルギー研究国際ネットワーク」が発足した。日本の大学,研究機関のほか米プリンストン大学やカリフォルニア工科大学,シカゴ大学,マサチューセッツ工科大学,英エディンバラ大学,ロンドン大学,オックスフォード大学などの研究者も参加する。

 

 海外の研究者が日本のプロジェクトに集まってくるのは「暗黒エネルギーの謎を解くための強力な手段を日本が持っているからだ」と,このネットワークのコーディネーターを務める東京大学の須藤靖教授は解説する。「強力な手段」とは,国立天文台がハワイ島のマウナケア山頂(標高約4200m)に建設した「すばる望遠鏡」のことだ。

 

 暗黒エネルギーそのものを望遠鏡で観測することは不可能だ。しかし,宇宙に散らばる膨大な数の銀河について,それらの形状や散らばり具合を詳しく調べると,暗黒エネルギーの存在が浮かび上がってくる。

 

 そうしたミッションを遂行するには,数十億光年かなたにある暗い銀河の光を集める巨大な鏡を備え,しかも,夜空の広い領域を一度に観測できる能力が求められる。口径8mのすばるは世界最大級だが,同規模の望遠鏡は今や10台以上ある。しかし,「夜空の広い領域を一度に観測できる能力では,すばるが他を圧倒する」(須藤教授)。この能力が暗黒エネルギー研究でカギを握る。

 

 現在,暗黒エネルギー探索を1つの狙いとして,すばるの性能を大幅に向上させる観測機器の開発が進んでいる。20世紀末にその存在が明らかになり,人類に突きつけられた21世紀最大の謎ともいえる暗黒エネルギーの解明で,日本が世界の先端に飛び出ようとしている。

 

 

再録:別冊175「宇宙大航海 日本の天文学と惑星探査の今」

再録:別冊日経サイエンス187 「宇宙をひらく望遠鏡」

協力:須藤靖(すとう・やすし)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。専門は観測的宇宙論で,暗黒エネルギーと太陽系外惑星の研究にも取り組んでいる。2007年から日本学術振興会先端拠点事業として発足した「暗黒エネルギー研究国際ネットワーク」ではコーディネーターを務める。著書に『ものの大きさ──自然の階層・宇宙の階層』『一般相対論入門』『宇宙の大構造──その起源と進化』など多数。

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