日経サイエンス  2008年3月号

極限宇宙をのぞくガンマ線宇宙望遠鏡GLAST

W. B. アトウッド(カリフォルニア大学サンタクルーズ校) P. F. マイケルソン(スタンフォード大学) S. リッツ(NASA)

 米航空宇宙局(NASA)が打ち上げるガンマ線大口径宇宙望遠鏡GLASTによって,私たちは宇宙の新たな景色を目にするだろう。GLASTは高エネルギーのガンマ線を大量に放出する超大質量ブラックホールや中性子星などの宇宙の“極限環境”を探ることができる。悠久不変のように見える夜空も,ガンマ線で見ると,さまざまなダイナミックな現象にあふれていることがわかる。超大質量ブラックホールは膨大な量の物質を光に近い速度で噴出,大質量星は爆発し,その残骸もガンマ線できらめいている。途方もなく強い磁場を持つ超高密度の中性子星や,荷電粒子(宇宙線)の衝突で生み出されるガンマ線で輝く銀河もある。

 

 こうしたさまざまな天体が生み出すものとは別の起源を持つガンマ線も存在するかもしれない。その1つは,謎めいた暗黒物質(ダークマター)を構成する未知の粒子に由来するガンマ線だ。その正体は,超対称性理論が存在を予測する新粒子である可能性が高い。通常の物質粒子や光とはほとんど相互作用しないが,暗黒物質粒子はそれ自身が自分の反粒子であるというおもしろい性質を持っていると考えられている。つまり,2個の暗黒物質粒子が出合うと消滅反応が起き,それらが持っていた大きな質量はガンマ線などの高エネルギー粒子に変換される。

 

 最もはっきりした信号として検出される可能性があるのは,対消滅によって,暗黒物質粒子の質量とまったく同じエネルギーを持つガンマ線光子が2個生まれるケースだ。その場合,ガンマ線のエネルギーは数百GeVになると考えられている。GLASTによって100GeV単位のエネルギー領域にガンマ線のピークが見えてくれば,暗黒物質がかかわっていると考えられる。

 

 このほか宇宙初期に誕生したミニブラックホールが蒸発する際に出すガンマ線を観測できるかもしれない。時空の余剰次元の存在や,特殊相対性理論の破れなどに関する手がかりが得られる可能性もある。

 

 

再録:別冊日経サイエンス187 「宇宙をひらく望遠鏡」

著者

William B. Atwood / Peter F. Michelson / Steven Ritz

GLASTは日米欧の科学者と技術者,テクニシャンからなる国際チームで開発が進められた。3人はいずれもそのチームのメンバー。アトウッドはカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授で,いくつもの素粒子実験に携わってきた。そのなかにはクォーク発見で名をはせたスタンフォード線形加速器センター(SLAC)での実験も含まれる。バイオリン製作者としても知られ50を超える楽器のラベルに彼の名が記されている。マイケルソンはスタンフォード大学教授でGLASTの大口径望遠鏡LATの研究代表者でもある。最初は超電導を研究していたが,重力波の検出装置開発に携わって以降は宇宙物理学が専門になった。リッツはNASAゴダード宇宙飛行センターの天体物理学者でメリーランド大学でも教鞭をとる。GLASTではプロジェクトサイエンティスト(理学研究者グループの代表者)を務める。作曲家としても活動している。

原題名

Window on the Extreme Universe(SCIENTIFIC AMERICAN December 2007)

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