日経サイエンス  2008年1月号

チップになった検査ラボ

C. Q. チョエ(サイエンスライター)

 小さなマイクロチップに,化学の実験室(ラボ)にあるビーカーやスポイト,薬品,加熱器が小さくなって詰め込まれ,キーホルダーにぶら下がっているのを想像してほしい。そうした驚くべき装置を開発し,生体分析をする手はずが整ったと発表する企業や大学が増えている。この装置を使えば,戦場の兵士の血液から細菌兵器を検出したり,汚染されたハンバーガーの毒素を同定したりできるというのだ。

 

 しかし,これらの装置のほとんどは携帯用にはまだほど遠い。確かに微量の血液や牛肉を調べるセンサーは“手のひらサイズ”かもしれないが,液状のサンプルをチップの微細な管の中で移動させるのに必要な装置は,卓上サイズかそれ以上の大きさになることがほとんどだ。

 

 この難題を2つの研究チームが克服しつつある。微量の液体を正確に操作する独創的な微小流体工学の技術を用いた。彼らは液体の分子を空気や電気で動かすことによって,サンプルの注入や分析,表示に必要なすべての装置をUSBフラッシュメモリーほどの大きさのチップに集積しようとしている。いまのところ,チップは手作りだが,最終的には大量生産が可能な設計になっている。

 

 将来は,「ラボ・オン・チップ」が途上国や戦場,家庭など必要な場所に持ち込まれ,その場でエイズウイルスや炭疽菌,病原性大腸菌などを迅速に検出できるようになる見通しだ。また,こうしたチップを糖尿病患者の体内に埋め込み,血糖値やインスリン濃度を監視するのに役立てることもできるだろう。

 

 このラボ・オン・チップは何百もの実験を同時に行うことができるうえ,従来の卓上型の分析機器に比べて時間も場所も費用も非常に少なくてすむ。そのため,研究者の間では実験ツールとしてのラボ・オン・チップの人気が高まりつつある。チップ内部の流路や弁は微量のサンプルや試薬の加熱,冷却,混合だけでなく電気刺激を与えるといった特殊な実験もできる。

著者

Charles Q. Choi

サイエンスライター。本誌に何度も寄稿しており,日経サイエンス2007年5月号のニュース・スキャンに国際極観測年に関する記事 「国際極年スタート」を掲載。七大陸すべてを訪問したことがある。

原題名

Big Lab on a Tiny Chip(SCIENTIFIC AMERICAN October 2007)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

ポリメラーゼ連鎖反応PCR法電気浸透流電気浸透コンベヤー