
探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワに近づくにつれ,いくつもの奇妙なことがわかってきた。まず,表面の様子が,これまで探査機が訪れた小惑星とはまったく違っていたのだ。例えば鮮明な画像が得られているガスプラとイダの表面は全体的にのっぺりした印象で,月にあるような隕石衝突によるクレーターが多数見られた。のっぺりしているように見えるのは,隕石衝突の際に生み出された膨大な砂礫(レゴリス)が舞い上がり,それが小惑星表面に降り積もったため,全体が砂漠のようになっているからだ。
ところがイトカワの多くの部分はレゴリスで覆われておらず,大きさ数m以上の石や岩塊がむき出しになったゴツゴツした岩場のような状態だった。レゴリスで覆われたのっぺりした部分は,イトカワをラッコに見立てた場合,ラッコの胸からのどにかけてと,横腹,背中の一部に限られていた。なぜイトカワはレゴリスで覆われている場所が少なく,しかも岩場と砂場がはっきり区分されているのだろう?
まだ大きな謎がある。もし,イトカワを肉眼で見ることができたら,その表面の色は月に似ていることがわかっている。ただ,人間の眼よりも微妙な色や明暗の違いを見分けられる「はやぶさ」の眼(カメラ)を通してみると,月や小惑星ガスプラなどと比べて,イトカワ表面ははるかに色彩豊かで明暗に富むことがわかる。大まかにいうと,青っぽくて明るい場所と,赤っぽくて暗い場所に区分けできるのだ。それらの分布はまだら模様のようだった。これはいったい何を意味するのだろう?
イトカワにまつわるこうした謎は,はやぶさがとらえた画像の解析などから解明され,長い年月のうちに,その姿形さえも変えていったダイナミックな歴史が浮かび上がってきた。
著者
吉川真(よしかわ・まこと)
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部准教授。専門は天体力学。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトサイエンティスト(前任は藤原顕氏)を務め,「はやぶさ」後継機による小惑星探査計画の実現にも取り組む。
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