日経サイエンス  2007年12月号

特集:肥満と食糧危機

なぜ太ってしまうのか

J. S. フライヤー E. マラトス=フライヤー(ともにハーバード大学)

 人類の誕生から現在に至るまでのほとんどの期間において,食物はまさに“食べられる時に食べるもの”だった。ヒトは食物がときどきしか手に入らない環境で進化したので,食べるものがない時に備えて摂取エネルギーを蓄える能力が生き残るために必要だった。私たちが脂肪と呼んでいる組織はその役割を専門とする器官だ。

 

 脂肪を蓄える能力は現在でも生きるために不可欠であり,飢餓状態でも脂肪のおかげで数カ月は生き延びることができる。だが最近は,脂肪として蓄積されるエネルギー量が世界中のさまざまな人たちのあいだで増えている。ここでは「肥満」を脂肪の蓄積が行き過ぎて,健康が脅かされるレベルまで達した状態を指すことにする。

 
 肥満者が増え続けている原因の1つは技術の進歩だ。食べ物が豊富になった上に,歩行や荷物の持ち運びなど日常的に身体を動かす機会が減ったため,必要以上のエネルギーをいつのまにか摂取してしまうのだ。しかし同じ豊かな環境に置かれていても,他の人より太りやすい人がいるのも事実だ。生理機能に個人差があり,エネルギー摂取量や消費量,あるいは脂肪としての蓄積量に影響している可能性がある。

 
 血圧や体温,血糖値,水分といった身体の重要な変数の多くは,自然のメカニズムによって厳密にコントロールされている。体重も同じように制御されているのかどうか,長年にわたる激しい議論があった。脂肪量の制御システムに関係している細胞のシグナル伝達やその経路を特定しようと盛んに研究が行われ,最近になってようやく大きな進展が見られるようになった。

 

 新しい発見によって,身体がエネルギーの必要量や貯蔵量を感知し反応する方法が明らかになってきた。そのおかげで,親から受け継いだ遺伝子に変異があるせいでこれらのメカニズムがうまく働いていなかったり,過剰な脂肪や環境要因によって異常が生じる場合があることがわかってきた。

 さまざまな発見が積み重なるにつれて,脂肪蓄積の制御にかかわっている複雑な生理システムの全体像がだんだんとわかり始めた。また,この知識を適正体重の維持や新たな肥満治療薬の開発などに活かそうとする研究も進められつつある。

著者

Jeffrey S. Flier / Eleftheria Maratos-Flier

2人は夫婦で,ボストンにあるベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの内分泌・糖尿病・代謝科の研究室を率いている。また,ともにハーバード大学医学部の教授で,肥満や糖尿病の生理学的な研究の一環として,体内のエネルギーバランスを制御しているシステムの重要な要素を解明してきた。フライヤーはこの9月1日に学部長に就任した。彼は健康な状態や病的な状態におけるレプチンとインスリンの機能に特に関心を抱いている。マラトス=フライヤーはメラニン凝集ホルモンのさまざまな役割を明らかにしてきた。最近,彼女は脂肪細胞からの貯蔵エネルギーの放出が誘発される際に,肝臓のタンパク質が重要な役割を果たしていることを明らかにした。

原題名

What Fuels Fat(SCIENTIFIC AMERICAN September 2007)

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