日経サイエンス  2007年11月号

どこにでも設置できる計算センター

M. M. ワールドロップ(サイエンスライター)

 コンテナがトラックや貨車に積まれて運ばれていくところを見かけるのは,取り立てて珍しいことではない。しかし,その輸送用コンテナに積まれているのが材木や衣料品,食料品といったお馴染みの品ではなく,巧妙に組み合わさった10トンもあるコンピューターで,1万人の社員を抱える大企業のインターネットユーザーの要求に応えるべく,いま,駐車場に止められようとしているとしたら……。これは空想の話ではない。米国サン・マイクロシステムズ社(以降,サンと記す)はまるで出前でも届けるかのように,ユーザーのもとへデータセンターを運び入れようとしているのだ。移動型データ処理の考え方は,いま,大きく変わろうとしている。

 

 “移動型”といっても,この「Project Blackbox」のシステムは標準的な20フィート(約6m)の輸送用コンテナに入っており,個人向けではなく企業レベルの話だ。しかし,大がかりではあっても,現場に到着したコンテナはノートパソコン同様,ほぼ単独で動く。必要なのは電源ケーブルとインターネット接続環境,水と冷却装置だけだ。

 

 コンテナ内には250台のサーバーが設置され,搭載メモリーは最大7テラバイト(1テラは1兆),ディスクの容量は2ペタバイト(1ペタは1000兆)を超える。おそらく最も重要なことに,カリフォルニア州メンローパークにいるサンの最高技術責任者パパドポラス(Greg Papadopoulos)によると,このコンテナは同等の処理能力を持つ従来のデータセンターを建設する場合と比較して,設置期間が1/10,コストは1/100程度ですむという。

 

 これらの見積もりが正しければ,Project Blackboxは企業のデータセンターを置き換えるだけでなく,あらゆる人にとって,コンピューターの使い方を変えることにもなるだろう。いまのコンピューターは使うソフトをそのコンピューターの内部に保持していなければならないが,将来の端末ではその必要はほとんどなくなるだろう。ワードプロセッサーや表計算など頻繁に使われるソフトはオンライン上で使えるようになるからだ。

著者

M. Mitchell Waldrop

ワシントン在住のフリーライターで,Science誌の元シニアライター。コンピューターの歴史に関する『The Dream Machine』(Viking,2001年)のほか,複雑系の研究で知られるサンタフェ研究所の設立をめぐる舞台裏を描いた『複雑系─科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』(新潮文庫)は日本でもベストセラーになった。

原題名

Data Center in a Box(SCIENTIFIC AMERICAN August 2007)

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