日経サイエンス  2007年11月号

森林火災を予測する

P. アンドリューズ M. フィニー(ともに火災科学研究所) M. フィシェッティ(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 米国では大規模な森林火災が徐々に増えている。森林火災が増えている大きな原因の1つは過剰な可燃物,特に枯れ木や下草が増えていることだ。森にはかつてないほど大量の可燃物が蓄積している。その大きな原因となっているのはここ数十年間,米農務省森林局などの土地管理機関が,すべての山火事を出火後速やかに鎮火させる方針を貫いてきたことだ。だが実は,火事によって堆積物が一掃されれば広範囲にわたって蓄積した可燃物がなくなるので,消火活動が不可能となるような,極めて大規模で強力な山火事はかえって起こりにくくなるのだ。

 

 それでなくとも,消火活動の必要な山火事の発生件数は増えている。原野に深く入り込んだ場所にも家が建てられるようになり,それを守らなくてはならないからだ。春の雪解けが早くなり,森が危険なほど乾燥した状態におかれる期間が何週間も長くなっていることも,問題を悪化させている。

 

 自然に発生した火事を燃え尽きるまで放置したり,計画的な野焼きを実施することで,可燃物の量を減らす必要があるのは明らかだ。森林火災は生態系を正常に保つ上でも重要だ。植物は適切な規模の山火事に助けられている面もある。

 

 残念なことに,大規模な山火事が発生する機会を減らすためにどのくらいの可燃物を除去すべきか,またどのような除去方法が最善なのかは判断が難しい。可燃物を除去するためには,どんなときに野焼きを実行したらよいか。発生した火災を消火せず自然に鎮火するのを待てばいいのはどんなときだろうか。こうした問題を解決するため,政治家や土地管理者,消防組織は,対策の効果を事前に評価するツールを必要としている。ここ5年ほどでコンピューターモデルの開発が進み,火災の燃焼挙動を把握したり,消防隊が山火事への対応策を決定する際の方針を示したりできるようになってきた。火災専門家や気候学者,コンピューター科学者らは,山火事が発生する条件が揃っている区域を次の週,あるいは次の夏の山火事シーズン,さらには数年先まで予測できる大規模なモデルも開発しようとしている。

著者

Patricia Andrews / Mark Finney / Mark Fischetti

アンドリューズとフィニーは森林火災を予測するため米国で広く利用されているいくつかの重要なコンピューターモデルを開発した。アンドリューズは米農務省森林局が運営する火災科学研究所(モンタナ州ミズーラ)の物理学者。フィニーはこの研究所の森林学者。フィシェッティはSCIENTIFIC AMERICAN編集スタッフ。

原題名

Predicting Wildfires(SCIENTIFIC AMERICAN August 2007)

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