日経サイエンス  2007年11月号

農業革新の決め手? 多年生穀物

J. D. グローバー C. M. コックス(ともにランド研究所) J. P. レガノルド(ワシントン州立大学)

豊かな国に暮らしていると,食べ過ぎですぐに体重が増えてしまう。そのせいで食物の生産はとても簡単なことだと考えている人もいるだろう。だが,現代の農業は広大な面積の土地だけでなく,水やエネルギー,化学物質の使用を常に必要とする。国連が2005年にまとめた「ミレニアム生態系評価報告書」はこれらの資源需要に言及し,「あらゆる人間活動の中でも,農業は生物多様性と生態系の機能に対する最大の脅威となる恐れがある」とした。

 

現在の人間の食物の大半は,穀物やマメ科植物,油糧種子作物などに頼っている。直接食べるだけでなく,家畜の飼料のように間接的に食べている分も多い。これらの主要作物が魅力的なのは,輸送や貯蔵がしやすく比較的長持ちし,タンパク質やカロリーの含有量がかなり高いからだ。その結果,世界の農地の80%をこうした作物が占めている。だがこれらはすべて一年生植物なので,毎年新しく種子を蒔き,おもに資源集約的な栽培法で育てなければならない。さらに問題なのは数十年後には世界人口が80~100億に増加し,それに伴って農業による環境悪化が進む恐れがあることだ。

 

そのため多くの育種家や農学者,生態学者が,現代農法のために姿を消してしまった自然の生態系により近い形で,穀類の栽培ができないか模索している。成功のカギとなるのは,おもな穀類を何年も生存できる多年生植物に変化させることだ。このアイデア自体は何十年も前からあるが,実現にはまだ時間がかかりそうだ。だが,植物育種科学が大きく発展したことで,とうとうゴールが見えてきた。

 

これまでも農家や発明家,科学者は栽培上の問題点を克服する方法を考えながら田畑を歩いてきたが,彼らの大半はどちらかというと短期的な視点から農業を考えていたのだろう。これに対し,1970年代にカンザス州の植物遺伝学者ジャクソン(Wes Jackson)は,農業とそれ以前の自然体系を1万年前に遡って比較した。人間による栽培によって一年生植物が増加する前は,さまざまな多年生植物が地上のほぼすべての部分に広がっていた。その様子は現代の未耕作地域で見ることができ,例えば北米の野生の植物種のうち85%は多年生だ。

 

ジャクソンは,カンザス州の背が高い草が茂るプレーリー地帯に生育している多年生の草花は,毎年の生産性が非常に高く,しかも豊かな土壌を育み維持していることに気づいた。これらの草花は肥料や殺虫剤,除草剤がなくても成長し,害虫や病気による害もあまり受けない。プレーリーの土壌を流れる水はきれいで野生生物も多い。

 

対照的にその近くでトウモロコシ,ソルガム(糖蜜の原料となるサトウモロコシをはじめとするモロコシ類),小麦,ヒマワリ,大豆などの一年生作物を栽培している畑では,生産性を維持するために費用をかけて頻繁に手入れをする必要がある。一年生植物は比較的根が浅く,地表から30cmくらいしか伸びないものがほとんどだ。また収穫期までしか栽培しないので,土壌の浸食や地力の低下,水質汚染などの問題が多くの農地で発生している。さらに畑には野生の生き物がほとんどおらず,不気味なほど静まり返っている。

 

要するに一年生植物の単一栽培(単作)をあまりに多くの場所で行っていることが問題なのだ。そしてその解決法はジャクソンの足元にあった。丈夫で多様性のある多年生植物の根系だ。

 

多年生植物の根は一般に深さ2mを超えるため,多年生植物の群落は水や炭素,窒素の循環といった生態系の機能を調整するのに非常に重要な働きをしている。冬や乾期など生育に適さない時期でも,多年生植物は地下部の組織などを維持するためにエネルギーを使わなくてはならない。だが多年生植物の根系は暖かくなって水や栄養素が利用できるようになるとすぐに地中深くで活動を始める。いつでも活動を開始できる状態を保っているため収穫性が高く,環境ストレスに直面しても回復が早い。

著者

Jerry D. Glover / Cindy M. Cox / John P. Reganold

グローバーは農業生態学者で,カンザス州サライナで持続的農業の研究と教育に力を注いでいるNPO(非営利団体)のランド研究所に籍を置き,大学院研究を指揮している。コックスはランド研究所の植物育種プログラムの植物病理学者で遺伝学者。レガノルドはワシントン州立大学プルマン校の土壌学教授。持続的農業が専門で,過去にも本誌に「自然に帰る米国農業」(日経サイエンス1990年8月号)を書いている。

原題名

Future Farming: A Return to Roots?(SCIENTIFIC AMERICAN August 2007)

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